バレエ

バレエ『くるみ割り人形』のあらすじ・鑑賞ポイントの解説(まとめ記事)

今回はバレエ『くるみ割り人形』のあらすじ・鑑賞ポイントのご紹介です。

ここでは14の項目に分けていますが、単なる内容説明だけでなく、トリビア的なこともご紹介していますので、バレエ鑑賞の際の予習・復習に役立てていただければと思います。

まとめ記事にもなっているので、スコア(譜面)やバレエ動画などの詳細はリンク先のほうをご覧になっていただければと思います。

バレエ『くるみ割り人形』のあらすじ

まず大まかな「あらすじ」です。

お話しはクリスマス・イブの夜のお話しで、クララ(マーシャ、マリーとも呼ばれる)という少女の一夜のお話しです。

詳細はリンク先を参照してもらいたいですが、2幕形式となっていて、かなりざっくりとしたあらすじは以下のとおりです。

<第1幕>

クリスマスパーティーで、クララは叔父であるドロッセルマイヤーからくるみ割り人形をプレゼントされる。

その夜、襲ってきたねずみの王様たちを人形と一緒に退治すると、人形は王子に変わり、人間に戻れたお礼にクララをお菓子の国へ案内する。

<第2幕>

お菓子の国に着いたクララは金平糖の精に王子を救った功績を認められ、様々なお菓子の精の踊りを披露してもらう。

その後、家の広間で目覚め、すべては夢だったことを悟るが、人形への愛は変わらず胸に抱きしめる。

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チャイコフスキーは物語と音楽の調性配置を関連付けている!

チャイコフスキーは物語の構成を、音楽の調性にうまく関連付けて『くるみ割り人形』を作曲しています。

具体的には

変ロ長調(序曲)⇒ホ短調/ホ長調(お菓子の国)⇒変ロ長調(最終曲)

という構成を取っており、しかも変ロ長調とホ長調は五度圏では対極に位置しています。

意図的に、現実世界と夢の世界の調性を正反対に配置して、音楽的にも別々の世界であることを表現します。

どう調性が離れているかの詳細は、下記のリンク記事を参考にしてもらいたいですが、チャイコフスキーは音楽の調性に関しても物語と関連させながら作曲しているのですね♪

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初演はオペラ『イオランタ』との2本立てだった!

今でこそ『くるみ割り人形』は単独上演していますが、実は初演はオペラ『イオランタ』との2本立てでした。

当時のパリ・オペラ座では2本立てでの公演が慣習となっていたので、それにならった感じですね。

そのため、『くるみ割り人形』は『白鳥の湖』や『眠りの森の美女』に比べればこじんまりとしていますが、現代においては約1時間30分の上演時間はちょうどいい時間ですし、結果的に2本立ての企画で時間が短くなって良かったとも言えます。

また第2幕の「雪のワルツ」の合唱は、公演時にオペラ歌手がいたので、わざわざ合唱団を雇う必要がなく好都合だったことでしょう。

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全幕上演の前に、「演奏会用組曲」として音楽が事前発表されてしまった!

通常「演奏会用組曲」というのは全幕が初演されて観客の反応などを見て曲が編まれるものですが、『くるみ割り人形』の場合は、先に「演奏会用組曲」が発表されてしまい、それから全幕上演という運びになりました。

チャイコフスキーの元に急遽新作の演奏会の依頼が舞い込み、どうしょうとなって苦肉の策で、その時に作曲中だった『くるみ割り人形』の一部を抜粋して演奏してしまったからです。

発表の順番が逆なのですが、「演奏会用組曲」の初演は大好評だったので、全幕上演のいいプロモーションにもなったとも言えるし、結果的に良かったのかもしれませんね。

演奏だけでも評判がよかったのですから、チャイコフスキーの音楽も完成度がかなり高いことの証明にもなっていると思います。

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バレエ『くるみ割り人形』の三大秘密兵器①チェレスタ

『くるみ割り人形』は当時まだ普及してなかった楽器奏法などを先駆的に取り入れたものがあります。

その中でも三大秘密兵器なるものがありますが、その一つは何と言ってもチェレスタです。

特に「金平糖の精の踊り」で有名です。

このチェレスタをチャイコフスキーが見つけた時は、自分が先に使いたいがためにライバルたちに楽器の存在を知られないようしてほしいと知人に頼んでいます。

チェレスタの柔らかく、時には幻想的に聞こえる音色は、『ハリーポッター』はじめとする映画などにも使われ、チャイコフスキーが『くるみ割り人形』で効果的に使用したことが現代にも影響を与えていると言えます。

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バレエ『くるみ割り人形』の三大秘密兵器②フラッタータンギング

2番目はフルートのフラッタータンギングですね。

巻き舌で「Trrrrrrr(トゥルルルルル)」と音を震わすように鳴らす奏法です。

今やそれほど珍しくもなく中学の吹奏楽部で演奏される曲でも出てきますが、当時はまだ珍しい楽器奏法でした。

フラッタータンギングの登場場面や実際にどんな音などは、リンク先にあるので確認してみてください。

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バレエ『くるみ割り人形』の三大秘密兵器③「雪のワルツ」合唱

3番目の秘密兵器は「雪のワルツ」の合唱ですね。

雪の精が踊る中、ヴォカリーズ(歌詞がなく母音などによって歌われる歌唱)で美しく歌われます。

少し薄暗い雪景色の中で、幻想的に歌われるこのシーンは大変美しい場面です。

当時はバレエに「声」が入るのは掟破りとも言えることだったと思いますが、雪の精の踊りとピッタリ合った音楽なので、当時の人も違和感なく受け入れられたことでしょう。

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チェレスタは「金平糖の精の踊り」以外でも鳴っていますよ!

チャイコフスキーの1番の秘密兵器チェレスタは、よく「金平糖の精の踊り」しか出てこないないと思われがちですが、実はけっこう他の場面でも大活躍しています。

第1幕では出てきませんが、第2幕では金平糖の精が登場する場面や最後のアポテオーズ(終曲)などで、メロディーの裏でちらちらと弾いています。

下の動画はフィナーレで、中国の踊りが出てくるパートの場面でのチェレスタ演奏です。

下記のリンク先には、すべての「金平糖の精の踊り」以外のチェレスタ登場シーンを、スコア動画とともに紹介していますので、劇場での鑑賞の前に確認しておきましょう!

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本当は「金平糖」ではない!正確には「ドラジェの精」です♪

実は「金平糖の精」の「金平糖」は意訳みたいなもので、原題は「ドラジェの精の踊り」(Danse de la Fee-Dragee」です。

金平糖とドラジェは糖衣菓子という点では同じですが、一般的なイメージとしては形状的にも食べ応え的にも大きく異なるものです。

※写真 (左)ドラジェ(右)金平糖

それぞれの詳細はリンク先を見てもらえればと思いますが、『くるみ割り人形』が初めて紹介された当時の日本ではドラジェは一般的でなかったし、コンペイトウというネーミングの響き甘い香りもするので、「金平糖」でよかったのかもしれませんね。

最近は「ドラジェの精の踊り」と表記するバレエ団やバレエ教室もありますが、「金平糖の精の踊り」も完全な誤訳ではないので慣例的に残してもいいと思います。

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「中国の踊り」の踊りは差別的なのか??踊りと差別と偏見の密接な関係。

多様性・多文化の観点から、昨今は過去の作品のおける差別的で偏見のある表現を見直す動きが出てきていますが、バレエも例外ではありません。

2021年にドイツのベルリン国立バレエ団が「中国の踊り」などについて人種差別的な要素があるとして、なんと『くるみ割り人形』の上演自体を取りやめると発表しました。

振りを変えれば済むことでないかと思うのですが、確かに過去にはかなりアジア人蔑視を感じるような振付もあり、同バレエ団は昔のままの振付だったのかもしれません。

下記のリンク先にもありますが、最近は第2幕のディベルティスマンの各国の踊りをもっと現代的なものにアップデートしている演出も出てきています。

元振付のイメージ曲想も大事にしつつ、時代に合った方法で変えていければいいですね。

バレエ『くるみ割り人形』の「中国の踊り」(Le Thé - Danse chinoise)は差別的!?今回はバレエ『くるみ割り人形』の中にある「中国の踊り」についてのお話しです。 2021年にドイツのベルリン国立バレエ団が、一部の演...

バレエ『くるみ割り人形』はミニマル・ミュージックの先駆的な作品!

言われないと気づかない人もいると思いますが、第2幕「グラン・パ・ド・ドゥ」のアダージョは基本的に

「ドーシラソファミレド」の単純な下降音階の繰り返し

で成り立っています。

子供がピアノで練習するぐらいシンプルな「音階」を、管弦楽法だけで美しいメロディーに変えてしまっているのですから、チャイコフスキーは天才としか言いようがありませんね。

現代のミニマル・ミュージック

「ある音の流れを反復させたり引き延ばしたりして、ミニマル(最小、極小)に扱う音楽」

ですが、この定義から行くと、この「グラン・パ・ド・ドゥ」のアダージョは最小限の音(単純音階)を繰り返しているという視点で見れば、ミニマル・ミュージックの先駆けとも言えるでしょう。

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バレエ関係者VSオーケストラ関係者。バレエ『くるみ割り人形』に対する認識の食い違いがある!

アマチュア・オーケストラの関係者の方で、『くるみ割り人形』をクリスマスストーリーであることを知らない人がいました。

オーケストラだけを弾いて全幕の演奏に関わらないと、基本的には一部の曲を抜粋した「演奏会用組曲」しか弾かないので、物語がどういうものか知らないのも無理はないでしょう。

バレエ関係者には「金平糖の精の踊り」が主役ダンサーの見せ場であっても、バレエを見ていないオーケストラ弾きにはチェレスタ奏者が頑張るだけの曲でしかありません。

逆に「演奏会用組曲」では「花のワルツ」が最終曲になっていて華々しく終わるので、「花のワルツ」が『くるみ割り人形』のトップ・オブ・トップと思っているオーケストラ関係者も多いです。

バレエ『くるみ割り人形』には「演奏会用組曲」以外の曲でも素晴らしい曲があるし、全曲のすべてが一つの作品として絡み合っているので、やはり全幕バレエを見て『くるみ割り人形』の曲の神髄を体感してほしいですね♪

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カットされた幻の曲「ジグ(jigue)」(イギリス)が存在している!

実はチャイコフスキーはピアノスケッチまで完成していたのに、カットされた幻の曲が『くるみ割り人形』にはあります。

本来は第2幕ディベルティスマンの各国の踊りの一つとして入る予定だった「ジグ(jigue)」です。

どうしてカットされたかは不明で、オーケストレーションはされずお蔵入りとなりました。

いくつかのバレエ団で挿入曲として用いられることもありますので、気になる方は下のリンク記事で詳細を確認してみてください♪

『くるみ割り人形』でカットされた幻の曲「ジグ(jigue)」(イギリス)について今回は、チャイコフスキーの名作『くるみ割り人形』の第2幕に入るはずだった幻の曲「ジグ(jigue)」をご紹介します。 この楽曲は、...

「アラビアの踊り」最後のタンバリンの一音が、バレエ全曲版と演奏会用組曲版で違う!

これは細かすぎて伝わらないレベルの話ですが、第2幕の「アラビアの踊り」でクラリネットの低音が静かに消えた後に聞こえるタンバリンの一音が、バレエ版と組曲版で異なっています。

下のリンク先には動画とスコアでご紹介しているので、詳細はそちらを見ていただければと思いますが、概要的には

全曲版 「タン・タタタタ・タン」 「(うん)・タタタタ・タン」

     ⇒2回目の始めのタンはなし(8分休符)

組曲版 「タン・タタタタ・タン」 「 タン ・タタタタ・タン」

     ⇒1回目も2回目も同じ

となっていて、なぜか一音だけ異なっています。

だから何だって!って話ですが、これ知っておくと実際の舞台や演奏会を聞きに行った時に、最後の一音が妙に気になってしまって、いつもはスリーピングタイムとなりがちな「アラビアの踊り」で目が覚ますことができるので、ちょっと耳を澄まして聞いてみてくださいな♪

「アラビアの踊り」最後のタンバリンの一音:『くるみ割り人形』のバレエ全曲版と演奏会用組曲版の「細かすぎて伝わらない」違いクラシック音楽やバレエに興味がある方なら、一度は耳にしたことがある『くるみ割り人形』。 チャイコフスキー作曲のこのバレエは、クリス...