今回はバレエ『くるみ割り人形』の中にある「中国の踊り」についてのお話しです。
2021年にドイツのベルリン国立バレエ団が、一部の演出の中に人種差別的要素があるという理由で、バレエ『くるみ割り人形』をクリスマス公演から除外すると発表しました。
特に第2幕ディベルティスマンの中の「中国の踊り」を問題視し、滑稽な扮装と誇張された踊り、そして肌の色を黄色に扮装することなどを人種差別的としました。
個人的には
「振りを変えればいいのでは??」
と思いましたが、ヨーロッパではクリスマスの風物詩の代表である『くるみ割り人形』を上演しないというのは、なんとも寂しい限りです。
今回はこの「中国の踊り」をめぐる問題について、ご紹介していきたいと思います。
バレエ『くるみ割り人形』の「中国の踊り」
まず、「中国の踊り」についてのおさらいですが、第2幕のお菓子の国で各国の踊りとして登場します。
コミカルな低音のバスーン(ファゴット)から、ソロフルートが変ロ長調の音階と分散和音からなるメロディーを軽やかに鳴らします。
1分程度の短い曲なのですが、チャイコフスキーの管弦楽法の巧みさを見ることができます。
踊りの特徴としては、人差し指ですね。
諸説ありますが、茶柱や箸を人差し指で表現しているみたいです。
他の特徴としてはお団子頭やチャイナドレスのような衣装(正確にはチーパオと呼ぶ)が挙げられます。
「中国の踊り」のどこが差別にあたるのか??
上にあげた動画程度の化粧や衣装の「中国の踊り」なら、人によっては違和感を感じるとは言え、チャイコフスキーが作曲した時代は、異国の文化や慣習の情報がまだ少なかったからしょうがなかったとも思えます。
ただ、中にはちょっとえっ?という振付・演出があったのも事実です。
たとえば
●「中国」の踊りなのにカツラをかぶっている⇒アジアの国の区別がついていない
●クーリーハットをかぶって踊っている⇒当時のヨーロッパでは下層階級のイメージがあり、それを一般的な中国人として見なしている。
など、ステレオタイプ化しているだけでなく、上から目線でかなり侮蔑的な扱いをしている振付も確かにありました。
我々日本人は差別に冷めているのか、それほど「中国の踊り」を始めとする各国のステレオタイプ化した踊りをあまり問題視しません。
しかし、たとえば映画『ティファニーで朝食を』に出てくる日本人ユニオシ(背が低く、出っ歯で、メガネをかけている醜くて卑しいキャラクター)を一般的な日本人像とされたら(過去には実際にされてきた)、ちょっと不快に思うでしょう。
「中国の踊り」についても、昔のステレオタイプ化された軽蔑な要素を含む表現を、今でも伝統という名のもとにそのまま繰り返し使い続けていたら
違和感から差別表現に繰り上げされる
のは必然的な結果です。
ベルリン国立バレエ団がどんな「中国の踊り」だったかはわかりませんが、もしかすると時代遅れの振付だったのかもしれませんね。
ちなみにベルリン国立バレエ団は2018年に黒人ダンサーに肌の色を揶揄したり、白い化粧をしてほしいと要求して大炎上していたので、そのこともあって人種差別的なことにセンシティブだったかもしれません。
バレエ『くるみ割り人形』の新演出も出てきている!
こういったこともあってか、「中国の踊り」を今までの伝統的な振付から見直す動きもあります。
たとえば、中国の古典芸能である京劇の要素を取り入れたものや、横浜中華街で春節の時期に見られる龍の舞いのようなものを使ったりと、現代的にアップデートしたりしているバレエ団もあります。
個人的には、バレエ『くるみ割り人形』の初演時(1982年)での中国は「清王朝」(1644年~1912年)であり、漢民族ではなく満州族が支配していた国だったので、もし当時の時代を忠実に再現するなら、満州族の文化・風習を元に演出するのもありかなと思います。
たとえば髪型を弁髪にしたり、時代考証の正確な衣装(チーパオ≒チャイナドレス)を着て踊るのいいかもしれませんね。
『白鳥の湖』なんかもともと悲劇だったのに、政治の圧力で結末が真逆になったハッピーエンド版が普及しているのだから
衣装や化粧を大胆に変えるぐらいどうってことない!
と思うのは自分だけではないでしょう。
最後に
日本人を扱った踊りでは、バレエ『人形の精』での日本人形の踊りがありますが、差別とは思わないまでも、もうちょっと時代考証を考えてマシにならないのかなと思うこともあります。
あまりにもステレオタイプ化された表現を伝統を言い訳にして使い続けては、やはり問題が出てくることもあるので、元振付のイメージや曲想も大事にしつつ、時代に合わせて踊りをアップデートしていければ、表現の幅も広がるしバレエの発展にも寄与できていいですね♪