今回はバレエ『くるみ割り人形』はミニマル・ミュージックの先駆けの作品というお話しです。
チャイコフスキーは『くるみ割り人形』の中で、ミニマル・ミュージックの特徴である単純なメロディーを何度も反復させる手法の曲をいくつか書いています。
もちろんチャイコフスキー自身が自分をミニマリストだなんて思ったことはないと思いますが、バレエ『くるみ割り人形』は現代のミニマル・ミュージックに通じる曲がいくつかありますので、その代表曲などをご紹介したいと思います。
「ミニマル・ミュージック」とは??
まずミニマル・ミュージックについてですが、一般的には
ある音の流れを反復させたり引き延ばしたりして、ミニマル(最小、極小)に扱う音楽
です。
ミニマル=最小と言っても、反復・引き延ばしの際に生じる音響の微細な差異や変化に焦点を当てることも主眼としており、音の流れやリズムを意図的にずらしたり重ね合わせたりと、単純ながら時として複雑に聞こえる音楽形式とも言えるでしょう。
代表的な作曲家にはラ・モンテ・ヤングやテリー・ライリー、スティーブ・ライヒ、アルヴォ・ペルトなどが挙げられます。
コンテンポラリーバレエとの相性もいいのか、よく踊りの音楽としても使用されることも多いですね。
個人的に好きな作曲家はアルヴォ・ペルトで、彼の代表曲は「鏡の中の鏡」はバレエ音楽でもよく使われていますよ!
『くるみ割り人形』の「グラン・パ・ド・ドゥ」アダージョの音階
そして、バレエ『くるみ割り人形』の中には、ミニマル・ミュージックの最たるものと言える曲があります。
それは第2幕にある「グラン・パ・ド・ドゥ」のアダージョです。
この曲、バレエ経験者にあまり気づかれていないのですが、基本のメロディは
「ドーシラソファミレド」
の単純な下降音階だけで成り立っている非常にシンプルな曲です。
普通の単純な音階「ドレミファソラシド」を「ドシラソファミレド」と逆にしているだけの小学生でもピアノで弾ける音階にもかかわらず、これほどまでに美しい壮大な曲に仕上がっているのですから、チャイコフスキーは天才ですよね!
中間部や終結部以外は、基本的に「ドーシラソファミレド」の下降音階がずっと繰り返されるのですが、それに気づかないぐらいの心に染み入る曲です。
単純な音階を、和声と管弦楽法だけで感動的で壮大な曲に仕立て上げてしまうのは、チャイコフスキー自身も気づかなかったミニマル・ミュージック的な先駆的試みのようにも感じますね。
他のミニマル・ミュージック的な要素のある曲
「グラン・パ・ド・ドゥ」のアダージョ以外にもミニマル・ミュージックのような曲があります。
たとえば第1幕のクララとくるみ割り人形のパ・ド・ドゥ(動画35:00~)です。
ここでの曲は「↑ド-・レ-・ミ- / ↓レ- / ↑レ-・ミ-・ファ- / ↓ミ- ・・・」と基本的に3つ上がって1つ下がる音型の単純な繰り返しだけで、曲を成り立たせています。
「グラン・パ・ド・ドゥ」のアダージョほど単純音型ではないですが、同じフレーズの反復だけなのに、ここまで主役二人の踊りを際立たせる美しい音楽を作り上げてしまうのは天才のなせる技として言いようがありません。
案外、ミニマル・ミュージックのような最小限のシンプルなメロディーのほうが、観客の耳にスムーズに届きやすいのかもしれませんね。
最後に
今回ご紹介した以外にも、バレエ『くるみ割り人形』はミニマル・ミュージックの萌芽とも思えるような単純な音型を反復させるような曲が多いです(クリスマスツリーが大きくなるシーンなど)。
『くるみ割り人形』の音楽が、特にクリスマスシーズンには世界中どこでも流れているのは、このようなシンプルな曲の中にある美しい繰り返しのせいかもしれませんね。
バレエ『くるみ割り人形』を舞台で踊る時は、チャイコフスキーのミニマル・ミュージック的な要素も味わいながら踊ってもらえればと思います。