とあるバレエ教室で生徒さんが
「映画の『ハリーポッター』の中で『くるみ割り人形』の「金平糖の精の踊り」の曲が使われていたよね!?」
って言ったのを聞きました。
もちろん映画内で、「金平糖の精の踊り」は使われていないし、メロディーもはたして似ているかな・・・と思いましたが、チェレスタという『くるみ割り人形』でブレイクした楽器で演奏されているので、音の響きは確かに同じです。
今回はそのチェレスタをメインにすえて、「金平糖の精の踊り」を交えながら、お話ししていきたいと思います。
金平糖の精の踊り
まずは「金平糖の精の踊り」のおさらいをしておきましょう。
『くるみ割り人形』の2幕のグラン・パ・ド・ドゥの女性ヴァリエーションですね。
派手な動きがないのに、かなりポワントワークの難易度が高く、それでいて踊りの難しさが観客に伝わりにくいダンサー泣かせのヴァリエーションです。
バレエをやっている人にはお馴染みの曲ですが、バレエを知らない音楽関係者の人には組曲の中でサラッと流れてしまう曲かもしれません。
けれど、チェレスタの幻想的な音によって紡ぎだされる印象的なメロディーは、誰もが一度は聞いたことがあると言えるでしょう。
ちなみに、『くるみ割り人形』のチェレスタはこのヴァリエーションでしか出てこないと思われがちですが、2幕の冒頭の部分などでもしっかりと演奏されてます。
別の記事で紹介する予定ですので、全幕公演を見たときなどは注意して聞いてみてください。
チェレスタ
次にこの「金平糖の精の踊り」で有名になったチェレスタがどういう楽器のなのか見てみましょう。
下の写真は、静岡県の「浜松市楽器博物館」で撮ってきたチェレスタの写真です。
見た目はリードオルガンみたいですが、中には金属製の音板があり、どこか鉄琴に近い音を出す仕組みとなっています。
この小さなアップライトピアノような楽器から、かわいらしくて甘みの漂う響きが生み出されるわけですね。
ちなみチェレスタの呼称はフランス語のセレステ「天使のような」から来ていて、どこかこの世なら響きがありますし、実際に映画『ハリーポッター』や『スターウォーズ』など架空の世界を扱った作品で使用される傾向があると言えます。
この楽器をたまたまパリで発見したチャイコフスキーは、自分が最初に使いたいがために、知人に誰にもチェレスタ見せないようにお願いしています。
実際はフランスで、すでに別の作曲家による作品で使われていたものの、バレエ『くるみ割り人形』で効果的に使われることにより、全世界に広まっていくことになったので、チャイコフスキーの功績は素晴らしいものがあるでしょう。
チェレスタを発見した時に、ライバルに先を越されたくないために秘密厳守を指示したチャイコフスキーはどこかお茶目な気がしますが、その作戦は大成功だったと言えますね。
手紙で秘密にしておいてほしいとチャイコフスキーが書いた内容を抜粋で引用しておきます。
<出版業者ピョートル・ユルゲンソン宛の手紙より(抜粋)>
パリで私は新しいオーケストラの楽器を見つけました。
それは小さいピアノとグロッケンシュビールの中間のようなもので、神々しい美しい音を持っています。
私はこれをバレエを交響詩に導入したいのです。
でも、そのことはは誰にも知られないようにしなくてはなりません。
リムスキー・コルサコフやグラズノフが耳にしようものなら、私よりも先にその新しい効果を利用しかねないと心配なのです。
この楽器は大評判になるだろうと思います。
『胡桃割り人形』論-至上のバレエ- 平林正司著
チェレスタの他の曲での使用例
チャイコフスキーのおかげで、チェレスタはその後、様々な芸術分野で使われています。
バレエで言えば・・・
パキータ 「アルミードのヴァリエーション」
ラヴェル 「ボレロ」
ストラヴィンスキー 「火の鳥」「ペトルーシュカ」
https://www.youtube.com/watch?v=H8QoqfZumYo
クラシック曲だと・・・
レスピーギ 「ローマの噴水」
リヒャルト・シュトラウス 「アルプス交響曲」
ホルスト 「惑星」
マーラー 「大地の歌」
映画なら・・・
『ハリーポッター』
『スターウォーズ』
『未知との遭遇』
『E.T.』
『ホームアローン』
『くるみ割り人形』がクリスマスストーリーのためか、クリスマスの時期にはチェレスタを使って編曲したクリスマスソングが、街中でよく流れていますよ!
こういうところにもチャイコフスキーが作曲した『くるみ割り人形』の中の「金平糖の精の踊り」の踊りの曲が、世界中に大きな影響を及ぼしたと言っても過言ではないでしょう。
最後に
「金平糖の精の踊り」という数分にも満たない踊りにより、チェレスタという魅惑的な楽器が、ここまで世界中に波及したのは奇跡のようですよね!
バレエで踊る時や観賞する時は、チェレスタの天使のように美しく幻想的な響きも、意識して味わってもらえればと思います。