今回は『くるみ割り人形』の「花のワルツ」についてのお話しです。
1892年に出来上がった曲にもかかわらず、おそらくバラエティー番組やCMで最も起用される人気アイドル曲と言っても過言ではありません。
その華やかで耳に残りやすいメロディは、バレエやクラシック曲に疎い人でも一度は聴いたことがあるでしょう。
今回はこの「花のワルツ」について、すぐに役立つ知識から明日以降も絶対に役に立たない知識(トリビア)まで5つご紹介したいと思います。
「花のワルツ」はアンコールの定番曲
アマチュアオーケストラでは、みんなが曲を演奏できるように楽器編成を考慮しなければならないので、時として演奏曲を決めるのが難しいことがあります。
特にアンコールで弾く曲を決める時など、それぞれの団員がそれぞれ好きな曲を演奏したいと思っていても、他のパートでは楽器が編成に含まれていない曲も多いものです。
そんな中、チャイコフスキーの「花のワルツ」は、ほぼすべての楽器が揃うので都合のよい曲として重宝されたりします。
団員全員が演奏に関わることができるだけでなく、曲自体も誰もが聞いたことのある華やかな旋律なので、アンコールで演奏するのにも最適です。
ちょっと演奏時間が6分を超えてしまうのが難点なところもあるのですが、オーケストラ業界では非常に使い勝手のいい曲として「花のワルツ」は使用されたりします。
振付家マリウス・プティパによる作曲指示
振付家マリウス・プティパは、チャイコフスキーに『くるみ割り人形』の「花のワルツ」を作曲する際の指示書を渡していました。
その中で、『眠りの森の美女』第1幕の「ガーランドワルツ」のようなスタイルで作曲するように求め、小節数も同じにすることを指定しています。
『眠りの森の美女』は大ヒットを記録していたので、プティパは同じような目玉となるグランワルツを作品に組み込みたかったのでしょう。
最終的に「花のワルツ」は、『眠りの森の美女』の「ガーランドワルツ」より、長く豪華な構成となって完成しています。
ガーランドワルツ 297小節
花のワルツ 389小節
それでも、両曲を比較すると、冒頭の出だしや全体的な流れなどに似通った部分が見られます。
両曲の共通点を意識しながら聴くと、新たな魅力を発見できるかもしれませんね。
「花のワルツ」はディベルティスマンではない
プティパだけでなく、チャイコフスキーも「花のワルツ」に思い入れがあったことは作品につける番号にも出ています。
通常、第2幕のディベルティスマン(一連の各国の踊り)というと、「スペインの踊り」からグラン・パ・ド・ドゥ前の「花のワルツ」までを指すことが多いですが、実は「花のワルツ」は下にあるように、曲番号が単体でつけられています。
<第2幕>
第10曲 情景 (Scène) 【お菓子の国の魔法の城】
第11曲 情景 (Scène) 【クララと王子の登場】
第12曲 ディヴェルティスマン (Divertissement)
チョコレート (Le Chocolat) 【スペインの踊り】
コーヒー (Le Café) 【アラビアの踊り】
お茶 (Le Thé) 【中国の踊り】
トレパック (Trépak) 【ロシアの踊り】
葦笛 (Les Mirlitons) 【葦笛の踊り】
ジゴーニュ小母さんと道化たち (La Mère Gigogne et les Polichinelles)
第13曲 花のワルツ (Valse des fleurs)
第14曲 パ・ド・ドゥ (Pas de deux) 【金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥ】
【アダージョ】【イントラーダ】
ヴァリアシオンI 【タランテラ】
ヴァリアシオンII 金平糖の精の踊り (Danse de la Fée-Dragée)
コーダ (Coda)
第15曲 終幕のワルツとアポテオーズ (Valse finale et apothéose)
※出典:Wikipedia
各国の踊りは第12曲目としてまとめられていますが、「花のワルツ」だけは第13曲目として振り直されています。
わざわざ曲番号を変えたのは、他の曲とは一線を画そうとしていることの現れでしょう。
実際に「花のワルツ」は作品番号からも(『くるみ割り人形』の作品からも)単独で飛び出して、世界中で愛される曲となっていますよね。
「花のワルツ」は演奏会用組曲版ではトリ!
演奏会用組曲版でも、チャイコフスキーは「花のワルツ」に特別な思い入れがあることがわかります。
曲目のリストを見てみましょう。
第1曲 小序曲 (Ouverture miniature)
第2曲 性格的舞曲集 (Danses caractéristiques)
a 行進曲 (Marche)
b 金平糖の精の踊り (Danse de la Fée Dragée)
c ロシアの踊り(トレパック) (Danse russe (Trepak))
d アラビアの踊り (Danse arabe)
e 中国の踊り (Danse chinoise)
f 葦笛の踊り (Danse des mirlitons)
第3曲 花のワルツ (Valse des fleurs)
「花のワルツ」はトリに持ってきてあり、華やかに組曲をしめる役割を与えられています。
バレエ全幕版では最も注目をあびる「金平糖の精の踊り」よりも重要な位置付けとなっていることがわかると思います。
演奏会用組曲版はチャイコフスキーが急な新作演奏会の依頼を受けて、時間がないので当時作曲中だった『くるみ割り人形』から抜粋したものです。
作曲者自身が「花のワルツ」をオオトリに持ってきているで、本人もこの曲の出来栄えに満足していたのでしょうね。
「花のワルツ」の略した呼び名
何にでもですが、ある名前を略して呼ぶことは多いです。
たとえば
『白鳥の湖』⇒白鳥
『眠りの森の美女』⇒眠り
『くるみ割り人形』⇒くるみ
『ドン・キホーテ』⇒ドンキ
など、正式名称で呼称するほうが、むしろ珍しいかもしれませんね。
「花のワルツ」も略して呼びますが、教室によっていろんな呼び方がありました。
花ワ
これが一番多かったですかね。
花輪ともかかっていて発音しやすいです。
花ワル
花ワほどではないですが、これもありました。
ワルが悪みたいで聞きようによっては印象がいいわけでないのですが、一応このように呼んでいた教室もありました。
花
これは第1幕にある「雪のワルツ」と対比で使われていた感じです。
文字数としては2つだけなので、一番の簡略ヴァージョンと言えますね。
最後に
「花のワルツ」は音楽界におけるベートーヴェンの「運命」のようド定番曲で、「この曲大好き」みたいなことを言うのはもはや気が引けるぐらいなのですが、やはり定番になっただけの人を引き付ける魅力があります。
チャイコフスキー自身もおそらく納得の出来栄えだったと感じている曲なので、今回の記事をふまえながら改めて「花のワルツ」を魅力を味わっていただきたいと思います。