今回は、チャイコフスキーの名作『くるみ割り人形』の第2幕に入るはずだった幻の曲「ジグ(jigue)」をご紹介します。
この楽曲は、実際に完成された作品の中には採用されなかったものの、バレエファンの間では密かに話題となることもあります。
ここでは第2幕のディベルティスマンにイギリス代表として入るはずだった「ジグ(jigue)」の魅力や背景、そして実際の使用例について掘り下げてみましょう。
イギリス代表の曲として使われるはずだった「ジグ(jigue)」
『くるみ割り人形』の第2幕は、さまざまな国の舞踊を表現するディヴェルティスマンで構成されています。
中国やアラビアなどのエキゾチックな踊りに加え、実はイギリス由来の舞曲「ジグ(jigue)」も予定されていました。
この「ジグ(jigue)」、チャイコフスキーはピアノスケッチまで完成していたのですが、残念ながらオーケストレーションされることなくカットされてしまいました。
「ジグ(jigue)」は、イギリスやアイルランドの伝統的な舞踊で、軽快でリズミカルなリズムが特徴です。
第2幕の多国籍なダンスの中に「ジグ(jigue)」が加わっていたら、また全体の雰囲気が違ったものになっていたかもしれませんね。
「ジグ(jigue)」がカットされた理由
なぜ「ジグ(jigue)」がカットされたのか?
実際のところよくわかっていないのですが、いくつかの理由が考えられます。
一つの可能性は、振付のプティパによりバレエ全体の構成や流れに影響を与えると判断されたためかもしれません。
特に第2幕は、すでに多くの異なる国の踊りが詰め込まれていたので、曲想や上演時間の関係で除外されたのかもしれませんね。
また、当時の観客の嗜好や劇場支配人イワン・フセヴォロシスキーの方針も影響したかもしれません。
結局のところ明確な理由は判明していないのですが、「ジグ(jigue)」は曲として正式に残されることなく、幻の曲としてその存在が一部のファンの間で語られることになりました。
「ジグ(jigue)」を実際に使用している事例
YouTubeで
「nutcraker jigue」 または 「nutcraker English Toffee」
と検索すると、バレエ音楽の編曲で名高いジョン・ランチベリー(John Lanchbery)によりオーケストレーションされた曲で、バレエ教室の発表会と思われる動画の中で使用されているのを見ることができます。
English Toffeeはイギリス発祥のお菓子で、バターと砂糖、あるいは水あめやはちみつなどを高温で煮詰めたキャンディー
さすがにプロのバレエ団で使用はされてないよね?
と思う人もいるかと思いますが、ロンドン・フェスティバル・バレエ(現イングリッシュ・ナショナル・バレエ)でかつて使用された実例もあります。
現在市販されているDVDなら
「ベルリン国立バレエ団のパトリス・バール版」
の中の第2幕で、マラーホフ演じるクルミ王子が踊るソロで使われていますので、興味のある方はご覧になってみてください♪
そもそも「ジグ(jigue)」って何?
では、そもそも「ジグ(jigue)」とは何でしょうか?
「ジグ(jigue)」は、イギリスやアイルランドに由来する民俗舞踊であり、特にバロック時代から広まりました。
リズムは主に8分の6拍子または8分の9拍子で、軽快で活発な雰囲気が特徴です。
「ジグ(jigue)」は、社交の場や舞踏会で踊られることが多く、バロックダンスの一部として、オーケストラ音楽や舞踏作品にもしばしば取り入れられました。
本来は舞曲であるという性質上、他の舞踏と組み合わせやすく、多様なスタイルの中で表現されることが多いため、バレエの演目にも非常に適した形式と言えるでしょう。
最後に
『くるみ割り人形』の第2幕に予定されていた幻の「ジグ(jigue)」がもし正式に組み込まれていたら、どのような舞台が展開されていたのか、想像するだけでもワクワクしますね。
チャイコフスキーの音楽は、時代を超えて多くの人々に愛され続けており、その中に潜む未使用の楽曲やスケッチは、さらなる発見や新たな解釈を生む可能性を秘めています。
完成された作品に挿入曲を入れることには賛否両論がありますが、未使用の曲の存在を知ることで、作品に対する理解や愛情が一層深まることでしょう。