バレエにまったく無縁な人に、こちら(大人男性バレエ)がバレエレッスンを受けていることを話すと
「じゃあ、トゥシューズとか履いてるんだ~!」
って言う人がいました。
バレエをしている人には言うまでもなく、基本的に男性はトゥシューズを履かないのですが、バレエに関心がなければそんな程度の認識が、まあ・・・普通なのかもしれませんね・・・。
でも、トゥシューズに対して、男性一般の方がこのように思っていたとしたら、大人男性でバレエを始めてみようかと考えている人でも、もしかしたら男性もトゥシューズを常に履くと思っている人もいるかもしれないので、今回は男性とトゥシューズにまつわるお話をしていきます。
トゥシューズの成り立ち
男性が基本的にトゥシューズを履かない理由を説明する前に、まずトゥシューズについての成り立ちをざっくりおさらいしておきます。
トゥシューズが歴史の舞台に登場してきた時、始めは
妖精のような浮遊感を持つ物体
を表現する手段の一つとして活用されました。
それまでは妖精や幽霊などは、天上から吊ったワイヤーなどを使って飛ばしてたりしてましたが、大がかりな装置を使わず、つま先立ちでこの世ならぬものを表現することがある時に編み出されたのですね。
トゥシューズの起源は諸説あるのですが、一般的にはマリー・タリオーニという女性が『ラ・シルフィード』の中でトゥシューズを始めたと言われており、本当に始めだったかわからないとは言え、よほど印象的に踊られたのでしょう。
その頃はランプなどなくロウソクの光などを使っていたので、薄暗い中でフワッとつま先立ちをしている光景は、さぞ美しくそして幻想的であったに違いありません。
『ラ・シルフィード』はロマンティック・バレエの代表的な作品だけでなく、ポワント技法が初めて効果的に使われたバレエなので、必ず見ておきましょうね♪
ちなみに2つのヴァージョンがあって、こちらはデンマーク王立バレエ団のオーギュスト・ブルノンヴィル版。
そしてこちらがパリ・オペラ座のピエール・ラコットによる復元版。
もとはフィリップ・タリオーニというマリ・タリオーニの父親が振付したものですが、振付の継承は途絶えてしまったので、ピエール・ラコットが可能な限り復元したものです。
男性がトゥシューズを履かない理由
トゥシューズの成り立ちから、男性がトゥシューズを履かない理由は明確ですね。
妖精や精霊は基本的には女性が演じていたので、そのままトゥシューズも女性が履くものとなりました。
ポワント技法は、あくまでも
女性が演じた妖精・精霊・天使・幽霊などから始まった
ので、男性には縁のないものとなったのは当然ですね。
男性らしさを強調するダイナミックな跳躍や風を切るような回転はトゥシューズには適していないし、男性は女性のポワントをサポートする側に回ることになっていきます。
トゥシューズの始まりの時点で男性には無関係のものだったので、それが現代になっても続いてる感じです。
男性もトゥシューズを履く場合がある
とは言っても、もちろん例外的に男性もトゥシューズを履くこともあります。
2パターンありますので、見ていきましょう。
男性があえてトゥシューズを履くバレエ作品がある!
「グランディーバ・バレエ団」や「トロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団」など男性のみで踊られるバレエ団が、笑いを取ることを目的としてトゥシューズを履いていることもありますが、そういったコメディーバレエではなく、列記としたバレエ作品の中にも男性がトゥシューズを履くものがあります。
代表的な作品をあげれば
フレデリック・アシュトン版『夏の夜の夢』
ヌレエフ版『シンデレラ』
などですね。
ただし、ここでもロバの動きの表現や、継母役を面白おかしくするために男性にトゥシューズを履かせているので、やはり女性のような正統派クラシックバレエの動きとしては用いられていません。
レッスンで履くように指導する先生もいる!
指導者によっては、男性でもトゥシューズを履くと引き上げ感がわかったり、甲出しをする訓練にもなったりするので、トゥシューズでのレッスンをすすめる人もいました。
確かにポワント技法ではしっかりとした身体の引き上げ必要となるので、体幹の意識や軸取りの練習には効果的と言えます。
また、トゥシューズを体験しておくと
女性の気持ちもわかるので、パ・ド・ドゥの練習
にもいいと個人的には思います。
サポートする男性が側からしたら、女性がどういう感覚でポワントワークをしているかなかなかわからないものです。
なので、トゥシューズを履いて少しでも女性がの視点や動きを確認しておけば、自分が女性を支える時に役に立つことでしょう。
ジェンダー的観点から、男性のポワントレッスンを認める時代の動きもある
男性がトゥシューズを履くのは例外的という話をしてきましたが、最近はジェンダーの観点からトゥシューズを履きたい男性にはポワントクラスの参加を認める傾向にもなっています。
アメリカのオープンクラスでは、男性でトゥシューズを履いて練習している人もいました。
性の多様性が昔よりは認めれる時代になりつつあるので、このように男性が普通にトゥシューズを履くこともありますし、今後は正統派バレエの作品でも男性がポワントワークをする作品も出てくるかもしれませんね。
最後に
「相手の靴を履いて(相手の視点に立って)、物事を考える」
という格言がありますが、パ・ド・ドゥなどで女性側の感覚や気持ちを理解するためにも、トゥシューズを体験しておくのもいいかもしれませんね。
前に何回か履いてみたことがありますが、足先は血みどろになるし、ポワントで立つのは一苦労だったし、女性ダンサーの大変さが身に染みてわかりました・・・。
男性は基本的にはトゥシューズを履きませんが、履いてバレエをする側を理解するためにも、トゥシューズ自体への関心は持っておくべきでしょう。