『白鳥の湖』の中でも、特に有名な場面といえば、第3幕の「黒鳥のパ・ド・ドゥ」ではないでしょうか。
オディールとジークフリート王子が踊る妖しいパ・ド・ドゥ。
現在では『白鳥の湖』を代表する名場面として、すっかり定着しています。

ところが、原曲に近い形で収録された全曲版CDを聴いていると、ちょっと驚くことがあります。

「あれ? 第1幕なのに、黒鳥のパ・ド・ドゥで聴いたことのある音楽が流れてきた……」

実は、現在第3幕で踊られている黒鳥のパ・ド・ドゥの音楽の一部は、もともと第1幕に置かれていたのです。
では、なぜ第1幕にあるのでしょうか?
今回は、現在の「黒鳥のパ・ド・ドゥ」がどのようにして生まれたのか、その音楽が第1幕から第3幕へ移動した経緯と、そこに加えられたオディールのヴァリエーションについて見ていきたいと思います。

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1877年の初演時は、第1幕の祝宴の踊りだった

『白鳥の湖』が初演されたのは1877年。
この初演版の第1幕は、ジークフリート王子の誕生日(成人)を祝う祝宴の場面でした。
王子を囲んで貴族や友人たちが集まり、さまざまな踊りが披露されます。
現在、黒鳥のパ・ド・ドゥとして知られている音楽の元になったパ・ド・ドゥも、この第1幕に置かれていました。

序奏:モデラート・アッサイ
第1幕
第1曲 情景:アレグロ・ジュスト
第2曲 ワルツ:テンポ・ディ・ヴァルス
第3曲 情景:アレグロ・モデラート
第4曲 パ・ド・トロワ
第5曲 パ・ド・ドゥ ⇒1895年蘇演版で第3幕へ移動!
~以下省略

つまり当時は

王子もしくは友人と、祝宴に集まった女性によるパ・ド・ドゥ

だったのです。
現在なら「黒鳥」を連想する音楽が、もともとは王子の誕生日を祝うための踊りだったわけです。

ちなみにブルメイステル版はアントレとアダージョだけですが、ここに元々の「第5曲 パ・ド・ドゥ」の曲を使って、いくらか原曲の順序に寄り添おうとしています。
下の動画は第1幕で曲の流れるところから始まりますので、確認してみください。(27:00~)

1895年、音楽が第3幕へ移動する

この音楽の運命を大きく変えたのが、1895年マリインスキー劇場での蘇演です。
プティパとイワーノフによって新たな振付が作られ、音楽面ではドリゴが改訂に携わりました。
このとき、第1幕にあったパ・ド・ドゥの音楽が第3幕へ移されます。
そして、その音楽がオディールと王子の踊りとして再構成されました。

つまり、第1幕の祝宴を彩っていた音楽が、第3幕ではオディールが王子を誘惑する重要な場面の音楽へと生まれ変わったのです。
これは単なる「曲の移動」ではありません。
同じ音楽が、まったく違う登場人物と物語上の役割を与えられたのです。
言ってみれば、現在私たちが知っている「黒鳥のパ・ド・ドゥ」は、

音楽の移動と再構成によって新たに創造されたシーン

と言ってもいいでしょう。

オディールのヴァリエーションも原曲ではない

そして、もう一つ忘れてはいけないのが、オディールのヴァリエーションです。
現在の黒鳥のパ・ド・ドゥで、オディールが華やかに踊るあのヴァリエーション。

実は、この曲もチャイコフスキーが『白鳥の湖』のために作曲した原曲にはありません。
1895年の蘇演で加えられた挿入曲で、チャイコフスキーの《18の小品》Op.72-12「いたずらっ子(L’Espiègle)」をドリゴが管弦楽化して使用したものです。

つまり現在の黒鳥のパ・ド・ドゥは、もともと第1幕にあったチャイコフスキーの音楽を第3幕へ移しただけではありません。
そこに原曲にはなかったオディールのヴァリエーションを加えることで、現在に近い形へと整えられていったのです。
「チャイコフスキーが第3幕に黒鳥のパ・ド・ドゥを書いた」というわけではありません。
もともと別の場面で使われていた音楽を第3幕へ移し、そこに新しい音楽を加えることで、現在の名場面が作られていったのです。

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最後に:「黒鳥のパ・ド・ドゥ」は後から生まれた名場面

こうして考えると、現在の「黒鳥のパ・ド・ドゥ」は、チャイコフスキーが最初から完成された形で作ったものではありません。
第1幕の祝宴の踊りだった音楽が第3幕へ移され、オディールのヴァリエーションなどが加わることで、現在の名場面へと生まれ変わったのです。

だからこそ、原曲に近い全曲版CDを聴くと、第1幕で「黒鳥の音楽」が流れてきます。
第1幕から第3幕へ――この音楽の移動こそが、現在の「黒鳥のパ・ド・ドゥ」を生み出した大きな転換点だったのです。