バレエ『白鳥の湖』は結末が違う!?悲劇からハッピーエンドまで、3パターンに分けて徹底解説!!
『白鳥の湖』と聞くと、王子とオデットが結ばれるハッピーエンドを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
実は、それは数ある結末のひとつに過ぎません。
『白鳥の湖』には、大きく分けると・・・
①徹底した悲劇
②救いのある悲劇
③ハッピーエンド
という3つのタイプの結末が存在します。
しかも、それぞれには時代背景や芸術観の違いが大きく関わっています。
今回は、『白鳥の湖』のさまざまなラストと、その変遷をご紹介します。
① 徹底した悲劇
『白鳥の湖』は、初期台本の段階から悲劇として構想されていました。
王子ジークフリートはロットバルトの策略によってオディールに騙され、オデットへの愛を誓ってしまいます。
その結果、オデットを救う唯一の希望を失い、悲劇へと向かっていきます。
つまり、この物語は単に「悪役に負ける話」ではありません。
王子自身もまた、自らの過ちによって愛する人を死へと追いやってしまう、悲劇の当事者なのです。
(上の動画はボリショイ・バレエのユーリー・グリゴローヴィチ版)
このような物語は、当時としては決して珍しくありませんでした。
19世紀前半には『ラ・シルフィード』や『ジゼル』などのロマンティック・バレエが人気を集め、人間が妖精や精霊など「この世ならぬ存在」に恋をし、最後は結ばれないという作品が数多く生まれました。
オデットもまた、人間でありながら魔法によって白鳥へ姿を変えられた幻想的な存在です。
そのため、『白鳥の湖』がもともと悲劇として生まれたことは、当時のバレエ史の流れから見ても、ごく自然だったと言えるでしょう。
(上の動画はルドルフ・ヌレエフ版)
現代でも、この悲劇性を徹底して描いた作品として知られるのが、ルドルフ・ヌレエフ版です。
ヌレエフ版は王子の心理描写を重視し、最後まで救いの少ない演出となっています。
そのため、「『白鳥の湖』は王子とオデットが幸せに結ばれる物語」と思って観ると、かなり衝撃を受けるかもしれません。
予備知識なしで観れば、「こんなに悲しい作品だったの!?」と驚き、ある意味トラウマ作品になってしまう人もいるでしょう。
<「徹底した悲劇」を採用しているヴァージョン>
ボリショイ・バレエのユーリー・グリゴローヴィチ版
パリ・オペラ座のルドルフ・ヌレエフ版
② 救いのある悲劇
現在、多くのバレエ団が上演の基礎としている1895年のプティパ=イワーノフ版では、悲劇のストーリーであることは変わらないにしても、救いのある物語になっています。
もちろん、こちらも王子とオデットは現世では結ばれません。
しかし、その犠牲によってロットバルトは滅び、二人は永遠の世界で結ばれることが示唆されます。
悲劇ではありますが、完全な絶望ではありません。
だからこそ、このラストは100年以上にわたって多くの人の心を打ち続けてきたのでしょう。
(上の動画はアメリカン・バレエ・シアターのケヴィン・マッケンジー版)
個人的にも、この結末はチャイコフスキーのフィナーレに最もよく合っているように感じます。
終幕の音楽は、単純な勝利を祝うような響きではありません。
深い悲しみを抱えながらも、それを乗り越えた先にある崇高さや浄化のような美しさがあります。
もし二人が命を落としたとしても、その犠牲によってロットバルトが滅び、二人の愛は永遠のものとなる。
そんな「悲劇だけれど希望が残る」終わり方だからこそ、あの壮大なフィナーレがより心に響くような気がします。
<「救いのある悲劇」を採用しているヴァージョン>
アメリカン・バレエ・シアターのケヴィン・マッケンジー版
牧阿佐美バレヱ団のテリー・ウェストモーランド版
③ ハッピーエンド
現在では、王子がロットバルトを倒し、オデットも助かるハッピーエンド版も数多く上演されています。
この流れが広まった背景には、20世紀のソ連で提唱された社会主義リアリズムの影響があります。
芸術には「観客に希望を与えること」が求められ、主人公が救われる物語が理想とされました。
その結果、『白鳥の湖』も「愛が悪に勝つ」という結末が広く上演されるようになったのです。
(上の動画はマリンスキー・バレエ団のコンスタンティン・セルゲイエフ版)
現在では、このハッピーエンド版に親しんでいる人も多く、バレエ教室の発表会などでも採用しやすい結末と言えるでしょう。
家族や友人が見守る中、小さな子どもたちが踊る舞台なら、王子とオデットが幸せに結ばれ、温かい拍手の中で幕を閉じる――そんな演出は、万人受けしますし、ファミリー層にも受け入れられやすいと言えます。
<「ハッピーエンド」を採用しているヴァージョン>
マリンスキー・バレエ団のコンスタンティン・セルゲイエフ版
ブルメイステル版
なぜ結末が変わっていったのか??
こうして見ると、『白鳥の湖』の結末は
悲劇 → 救いのある悲劇 → ハッピーエンド
という流れで変化してきたことが分かります。
1877年の初演の頃は、ロマンティック・バレエの流れを受けた悲劇がごく自然なものでした。
1895年の蘇演版には悲劇を残しながらも精神的な救済が加えられます。
そして20世紀には社会主義リアリズムの影響もあり、観客に希望を与えるハッピーエンド版が広く普及しました。
現在では振付家ごとの解釈によって、さまざまなラストが存在しています。
自分なら、この結末・・・
どの結末にも、それぞれの魅力があります。
徹底した悲劇には、悲劇だからこその芸術性があります。
ハッピーエンドには、観終わった後の幸福感があります。
ただ、私が一番好きなのは、やはり「救いのある悲劇」です。
王子とオデットは命を落としてしまう。
しかし、その犠牲によってロットバルトは滅び、白鳥たちは人間へ戻る。
そして二人の愛は永遠となる。
悲劇としての重みを失わず、それでいて希望も残る。
そんな終わり方が、『白鳥の湖』という作品にも、チャイコフスキーの音楽にも、一番しっくりくるように感じています。
最後に
『白鳥の湖』は、世界中で愛され続ける名作だからこそ、振付家や時代によってさまざまな結末が生まれてきました。
次に『白鳥の湖』をご覧になるときは、「今回はどんなラストなのだろう?」という視点で観てみると、新たな発見があるかもしれません。
皆さんは
①徹底した悲劇
②救いのある悲劇
③ハッピーエンド
この3つの中では、どの結末がお好みでしょうか??
