お正月に、とある日本のバレエ団が上演する『くるみ割り人形』の会場で
「もうクリスマスは終わったのに『くるみ割り人形』やるの何か変だね~」
「まだロビーにクリスマンスツリーがあるけど、まだ片付けないのかね」
という声が、聞こえてきました。
確かに日本だとクリスマスシーズンと言えば、12月入ってから12月25日までぐらいを指し、26日以降はお正月ムードに一気に切り替わるイメージがあるので、年明けムードの中で『くるみ割り人形』を見ることに違和感を覚える人もいるでしょう。
これには日本と欧米でのクリスマスシーズンの感が違うことに起因するもので、今回はその点についてご紹介したいと思います。

欧米のクリスマスシーズンは1月6日(公現祭)まで続く!
多くの日本のクリスマスイベントやイルミネーションは12月25日をもって終了し、その翌日にはクリスマスの飾りつけも片づけられることが多いです。
一方で、欧米のキリスト教圏ではクリスマス期間は1月6日(公現祭)まで続き、装飾もその日まで残す文化があります。
日本では宗教的な背景よりも季節行事として扱われ、お正月準備が優先されるため短期間で終了する傾向にありますが、欧米では1月6日までクリスマスマーケットは賑わい、クリスマスツリーもずっと飾られています。
だから『くるみ割り人形』も1月6日ぐらいまで上演する!
なので欧米での『くるみ割り人形』の公演は、クリスマス本番から年明けの1月6日ごろまで続くことが多く、これはキリスト教圏での伝統的なクリスマス期間(公現祭まで)を反映しているのです。
そのため、日本の大手のバレエ団が1月に入っても『くるみ割り人形』を上演するのは、欧米のクリスマスシーズンの伝統的な期間を意識したものと言え、必ずしも間違いではないのですね。

もちろん日本にいるとお正月の『くるみ割り人形』に違和感を感じるのも理解できます。
人はその国の文化や季節行事に影響を受けており、無意識のうちに周囲の雰囲気や環境にも左右されるものです。
実際に自分は2024年1月1日にロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでロイヤル・バレエ団の『くるみ割り人形』を見てきましたが、華やかなクリスマス装飾が会場を彩っており、クリスマスシーズンの真っただ中という雰囲気を強く感じられました。
自分がどこにいるかによって、物事の見方に影響を受けるものと言えるでしょう。

なぜクリスマスシーズンを「公現祭」までにしているのか!?
ちなみに欧米のクリスマスシーズンが公現祭(1月6日)まで続く理由ですが、キリスト教伝統で「クリスマスの12日間」がイエス・キリストの誕生から「東方の三博士」が礼拝に訪れるまでを祝う期間だからです。
公現祭は、イエスが異邦人(全人類)にも顕現したことを記念する重要な祝日とされています。

この期間内は、教会や家庭でクリスマスの飾り付けを続けたり、クリスマス休暇が続いたりする国や地域も多く、クリスマス本来の意味合いを深める時期とされています。
生まれたばかりのナザレのイエスの元を「東方の三博士」が訪れる話は、聖書の重要なエピソードの一つで、絵画のモチーフなどにもよく使われています。


たぶんヨーロッパをクリスマスシーズンに旅行したり、美術館を訪れた人は「東方の三博士」を元にした絵画や人形を見たことがあるのではないでしょうか??
クリスマスのことだけに『くるみ割り人形』にも間接的に影響しているので、ヨーロッパなどの旅行の際はちょっと「東方の三博士」の存在を意識してもらえれば幸いです。
「クリスマスイブ=クリスマスの前日」ではありません!
ちなみに日本では「クリスマスイブ=クリスマスの前日」というイメージが強いですが、実際の意味は少し異なります。
本来「イブ」は英語の“evening”に由来し、「クリスマスの夜」という意味です。
旧約聖書やキリスト教の暦では日没から新しい日が始まるため「クリスマスイブ」は12月24日の日没から12月25日の日没までを指します。
このため、24日の夜からすでにクリスマスが始まっているという考え方ですね。
日本では「イブイブ」(23日)までも前夜祭的気分で盛り上がることがありますが、これは和製英語で海外では使われませんので注意しましょう!

最後に
『くるみ割り人形』は、クリスマス・イブの物語を描くバレエで、欧米ではクリスマスから1月6日の公現祭までの伝統的なクリスマス期間に上演される習慣があります。
日本ではクリスマス後すぐにお正月準備に移るため、お正月に見ると違和感を覚える人がいますが、これは日本独自の文化的背景によるものと言えます。
この背景を理解すると、『くるみ割り人形』がお正月まで続くのは欧米のクリスマス文化の一部として自然なことだと分かりますし、バレエ作品への理解も深まるでしょう。