今回は『くるみ割り人形』の「アラビアの踊り」はどうしてコーヒーを象徴するようになったかのお話しです。
コーヒーと聞くと現代ではアフリカや南米のイメージが強いですよね。
セブンイレブンのコーヒーマシーンにも、キリマンジャロ(タンザニア)やブルーマウンテン(ジャマイカ)が謳われています。
実際に2020年現在のコーヒー豆生産量上位10か国の一覧を見てみると・・・。
ブラジル – 370万トン
ベトナム – 176万トン
コロンビア – 83万トン
インドネシア – 77万トン
エチオピア – 58万トン
ペルー – 38万トン
ホンジュラス – 36万トン
インド – 30万トン
ウガンダ – 29万トン
グアテマラ – 23万トン
※出典:ウィキペディア
で、「THEアラブ」の国なんか一つも入っていません(笑)。
もちろんアラビアコーヒー(アラビックコーヒー)の名前は聞くことはありますが、日本では珍しいジャンルであまり馴染みがないところです。
でも歴史的にはコーヒーが飲み物として発展した場所は、アラビアの国からであり、そこから世界中に広まっていきました。
チャイコフスキー作曲『くるみ割り人形』の「アラビアの踊り」もそんな歴史的背景がありますので、今回はここに焦点を当てながらお話ししていきます。
実際のアラビアコーヒー(アラビックコーヒー)もご紹介しますので、踊りや演奏の参考にしていただければ幸いです。
コーヒーがなぜ「アラビアの踊り」になる!?
コーヒーの起源は様々な説がありますが、一般的にはエチオピアで飲用されていたコーヒーがアラビアに伝わったとされています。
伝播ルートとしては
エチオピア→イエメン→メッカ(アラビアコーヒー)→オスマントルコ帝国(トルココーヒー)→ヨーロッパ→世界中へ
という流れです。
そして、最初に嗜好品としてのコーヒーが一般的になったのが、アラビアの地です。
当初は今のように味わいを楽しむ飲み物としてではなく、薬として飲用され、15世紀末に宗教上の理由で飲酒を禁じられていたイスラム教徒に、嗜好品として飲用されるようになりました。
コーヒーの広まりに宗教が間接的に影響していたところは面白いですね。
そこからヨーロッパに広まっていくのですが、チャイコフスキーの時代である19世紀後半では、まだコーヒーの発祥としてアラビアのイメージが結びついていました。
それ故に
「アラビアの踊り」=コーヒー
という図式ができたのですね。
また『くるみ割り人形』が作曲された時代、ヨーロッパでは東洋文化への憧れやエキゾチシズムが流行していました。
「アラビアの踊り」は、この東洋趣味を表現するもので、そこからアラビアのコーヒーの香りや豊かさがその雰囲気と結びついたのです。
エチオピアで生まれたとされるコーヒーが、このような歴史的な変遷を経て、『くるみ割り人形』の「アラビアの踊り」の踊りを生み出したと考えると感慨深いものがありますよね!
コーヒーの語源はアラビア語!
ちなみにコーヒーという名詞の語源もアラビア語から来ていると言われています。
「コーヒー」はアラビア語でコーヒーを意味するカフワ(アラビア語: قهوة:qahwa)が変化したもので、元々ワインを意味していたカフワの語が、ワインに似た覚醒作用のあるコーヒーに充てられたのがその語源であるとされています。
この言葉の由来からみても、コーヒーとアラビアの結びつきが強いことがわかりますね。
アラビア=コーヒーは偏見か?文化的象徴か?
最近は多様性・多文化の観点から、ステレオタイプ的な描写が差別的な表現として非難をあびることも多いです。
チャイコフスキーの『くるみ割り人形』については「中国の踊り」がたびたび批判の的になり、あの指先を立てて踊る振りを採用するバレエ団も少なくなりました。
そういった風潮の中で「アラビアの踊り」も例外ではありません。
昔なら許されても、今の時代にコーヒーを「アラビアの全てを象徴するもの」として描写するのは、アラビア文化の多様性を無視した単純化の一例となってしまいます。
「異国らしさ」を表現するために、ステレオタイプ的な象徴を今でも使い続けているのは、現代においては問題が出てくる可能性があることは確かでしょう。
ただ一方で、コーヒーがアラビアの文化と深く結びついていたのも事実です。
コーヒーの交易やその文化的影響は、アラビア地域から重要な歴史の一部として広がっていることは事実なので、一概に偏見とも言えなくもないです。
過大な誇張表現をしたり、著しくデフォルメされた踊りでなければ、あくまでもコーヒーの伝道師としての「アラビアの踊り」は許容されてもいいかもしれません。
実際のアラビックコーヒーってどうなの??
では、実際のアラビアコーヒーの味はどんなもんなんでしょうか??
ここから個人的な感想になりますが、正直言って・・・
美味しくはない(まずい)
です。
少なくとも一般的な日本人にとっては、ちょっと苦みが強く感じ、独特な風味に拒否反応を示す人は多いでしょう。
自分は子供の頃に飲んだ
良薬は口に苦しの「お薬」
みたいだと感じました。
飲み慣れてしまえば美味しいと感じるのかもしれませんが、どこかスパイシーで薬膳のような風味は、なかなか楽しめるような味ではなかったです(笑)
ただ、なんとなくコーヒーは始めは薬として用いられたことを肌で実感できましたし、一度飲んでみるのもいいとは思いますよ♪
最後に
2015年に、ベドウィンの来訪者に対してアラビアコーヒーを振る舞う行為(ホスピタリティ)が
「Arabic coffee, a symbol of generosity(アラビアコーヒー、寛容さの象徴)」
として、アラブ首長国連邦・サウジアラビア・オマーン・カタールの共同申請によりユネスコの無形文化遺産に登録された。
これもコーヒー界におけるビッグバンはアラビアから始まったことを示唆する一例と言えるでしょう。
チャイコフスキーの音楽も、この「アラビアの踊り」において低音の弦楽器と木管楽器を用いて、アラビアの神秘的な雰囲気だけでなく、コーヒーの濃厚で深い香りを巧みに表現しているようにも感じます。
次に「アラビアの踊り」に演奏や踊りで関係する方は、こういった歴史的な背景も参考にして取り組んでいってもらえればと思います。