バレエ

ロイヤル・オペラ・ハウスで鑑賞したロイヤル・バレエ団のによる『くるみ割り人形』の雑感

今回は2024年1月1日にロイヤル・オペラ・ハウスで見たロイヤル・バレエ団による『くるみ割り人形』雑感です。

YouTubeに出ているロイヤル・バレエ団が踊る動画とともに、あくまでも個人的な感想をお話ししたいと思います。

ここで見たピーター・ライト版『くるみ割り人形』の特徴については別の記事にしてあるので、そちらを参考にしてもらえればと思います。

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クリスマスツリーは思ったより大きかった!

DVDでの鑑賞時は、クリスマスツリーが大きくなるところにそんなに感銘は受けなかったのですが、生の舞台で見たときはけっこう迫力があって見応えを感じました。

今回はドナルド・ゴードン・グランド階 (The Donald Gordon Grand Tier)という2階ボックス席正面の最前席で、舞台全体を俯瞰してみることができたので、舞台上のクララが本当に小さくなっているように見え思わず

「錯覚って怖い」

と思いました。

人間ってありのままに物事を見ることができないものですね。

単にクリスマスツリーが大きくなるだけでなく、ツリーのそばにあるプレゼント家具なども大きくなるので、さらに錯覚を引き起こしやすいのでしょう。

また、音楽がだんだんと盛り上がっていく流れが、心理的にあおるような感じで影響して相乗効果を生み出していると思いました。

終演後に座席で残っている時に、スタッフがクリスマスツリーを片付けているのを見てしまったのですが、そこで見たクリスマスツリーは何の変哲もない大道具にしか見えなかったので、やはり大きくなっていくように見える錯覚は、視覚だけでなく聴覚も影響を受けて成り立っていると言えます。

ロイヤル・バレエ団から生まれた『不思議の国のアリス』でもアリスが小さく見える場面が出てきますが、その元ネタ?はこの『くるみ割り人形』のワンシーンであると感じました。

ちなみに劇場近くのコヴェントガーデン広場では、本当の大きいクリスマスツリーが設置してあったので、クリスマスシーズンにロイヤル・オペラ・ハウスに行った時は忘れずに寄って行ってくださいね♪

美しかった第1幕の「クララとくるみ割り人形のパ・ド・ドゥ」と「雪のワルツ」

『くるみ割り人形』の鉄板の場面でもういろんなヴァージョンを何度も見てきましたが、やはり「クララとくるみ割り人形のパ・ド・ドゥ」のシーンは美しかったです。

単純な音の繰り返しながら、そこから音楽の進行とともに色彩がついてくるような踊りの様は、クララと甥のハンスの心が通じ合っていくのがダイレクトに表現されていて時がたつのを忘れるぐらいに見入ってしまいます。

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雪のワルツも、雪の精がまさに雪を呼び込むような踊りを披露していて、そこから雪がパラパラと降ってくる舞台の光景は、実際の雪景色以上に美しかったです。

チャイコフスキーが表現する雪の音楽と、雪の精たちが踊る振付が完全に溶け合っていて、DVDだけでは感じることができない感動がありました。

世間一般では「花のワルツ」の曲がポピュラーなこともあり「雪のワルツ」より有名かもしれませんが、「雪のワルツ」はバレエには珍しくヴォカリーズによる合唱も入っているし、長調短調が曲の合間に入り乱れていて色彩豊かなので、こちらもぜひバレエに興味のない方にも知ってほしい名曲です。

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ちなみに雪の精を踊るダンサーたちは、雪に模した紙が踊っている最中に口に入ってしまうことが多いらしく、踊り終わった後の舞台袖で吐き出すらしいです(笑)

そんなことも視野に入れながら見ると、またちょっと違った目でこのワルツを楽しめるかもしれませんね。

「アラビアの踊り」の振付変更

DVDを擦り切れるほど見てきたので、細かな振付や演出の違いは全編を通して目についたのですが、2幕のディヴェルティスマンでは「アラビアの踊り」が、今までパ・ド・カトルだったのに、2人組のパ・ド・ドゥになっていたのが不思議に思いました。

後述する「中国の踊り」は時代の変化で演出によっては非難にさらされることも多い踊りですが、アラビアの踊りは今までどおり女性1名・男性3名の踊りでもいいのにと思いました。

まあ、女性1人に複数の男性がやや執拗で強引に絡んでいく踊りは、ヴァージョンによって子供には刺激が強いレベルのものもあるので、パ・ド・ドゥだとカップルの戯れでいいのかもしれません。

「中国の踊り」は大きく変更されていた!

たぶん振付(というより演出)の変更があるだろうなと予期していた中国の踊り

やっぱりかなり変更されていました!

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従来の「中国の踊り」の差別問題の詳細は、別の記事にあるのでそちらを参考にして頂きたいですが、主な変更点は

人差し指→両肩に指を置く

傘→なし

クーリーハット(貧しさの象徴)→なし

フーマンチュー風の髭(悪の象徴)→なし

変なお辞儀→なし

と、絵に描いたように差別問題に対応した振付になっていました。

個人的には、人差し指はお茶の茶柱をイメージしたものと言われるし残してもいいのにと思いましたが、いろいろと劇場側の意図や政治的な配慮の必要性もあるので、なかなか難しいところもあるのでしょう。

でも、クララが楽しそうに異国情緒に富んだ姿と踊りに混じって踊るのは、音楽の陽気さと相まって幸せな気分にさせてくれました。

日本人ダンサーの活躍

イングランドのサッカープレミアリーグでも冨安健洋選手(アーセナル)や遠藤航選手(リヴァプール)や三笘薫選手(ブライトン)ら日本人が活躍していますが、ロイヤル・バレエ団でも日本人が多数在籍しており、この日見た『くるみ割り人形』でも6人の日本人が出演していました。

しかも、中尾太亮さんは甥のハンス(くるみ割り人形)で、アクリ瑠嘉さんは2幕のグラン・パ・ド・ドゥという主要キャラですから、たいしたものです。

ドロッセルマイヤーの弟子である五十嵐大地さんも軽やかなジャンプで、少ない出番ながらも目立っていたし、花のワルツのリーダー役で踊った前田紗江さんもクララと一緒に踊る場面でも見劣りすることなく存在感を見せていました。

またローザンヌバレエコンクールで、ラ・バヤデール第3幕影の王国第3ソリストの素晴らしい踊りを見てから、個人的に注目していた佐々木万璃子さんも第1幕の人形の踊りをしっかりと踊っていました。

人形の踊りなのであえてカクカクした踊りですが、こういうのを丁寧に、しかもしっかりクラシカルな要素感じさせて踊るのは、すごいと感じました。

絶対にここから高田茜さんに続くプリンシパルが登場すると思われるし、皆さんには頑張ってもらいたいですね。

演奏について

いいところだけ書くと、かえってロイヤル・バレエ団の回し者(?)と思わてしまうかもしれないので、あえて一つ注文することも書いておきます。

演奏上のことで、最初の弦楽器だけで演奏される「序曲」に、若干重たさを感じるのが気になりました。

音の強弱のメリハリがあまりなかったし、音楽を盛り上げるべき場所でクレッシェンドが足りないのが、ちょっとこれでいいのか?と思ってしまい、作品の始まり部分としてはもう少し劇場に魔法をかけるような軽やかな演奏をしてほしかったです。

たぶん重めなのは、ピーターライト版では序曲の演奏中、ドロッセルマイヤーによるマイムの場面があるので、時間を引き延ばす都合上テンポをゆっくりにしているために、重く感じてしまうのかと思いました。

でも『くるみ割り人形』の序曲の大きな役割は

「ここからおとぎ話(ファンタスティックストーリー)が始まりますよ!」

とアナウンスするものなので、もうちょっとテンポアップしたものにできないのかと感じてしまいました。

もちろん他の場所などは素晴らしい演奏で、特に2幕のディヴェルティスマンや、フィナーレでチェレスタ・ピッコロ・ハープがユニゾンで演奏する個所などは鳥肌ものでした♪

また、第1幕のネズミとのバトルシーンの演奏も、舞台の迫力ある演出にさらに拍車をかけるような熱い演奏でした。

この場面は戦闘の場面なので、どうしても注目が舞台に行きがちですが、素晴らしい舞台は素晴らしい音楽があってのものなので、音楽にも注目してみくださいね。

DVD紹介

もう全振付を覚えてしまうぐらい見たお気に入りにのDVDをここでご紹介しておきますね。

日本が誇る吉田都さんが金平糖を踊る定番のDVDですが、やはりこれはバレエに興味のない人でも一回は見てほしいです。

ピーターライト版はそんなに奇抜な演出ではなくオーソドックスな演出だし、それでいて他のヴァージョンよりは物語性演劇性を重視しているので、初めて『くるみ割り人形』を見る方には、このピーターライト版が入りやすいと思います。

たぶん多くの日本のバレエ教室で、振付の参考にしているでしょうし、バレエ愛好家の皆さんもがっちり見ておいて損はないですよ!

最後に

欧州ではクリスマスシーズンはどこでも基本的に『くるみ割り人形』を上演するものです。

ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスも基本的にクリスマスシーズンは『くるみ割り人形』を上演するので、ぜひ年末年始にロンドンで生の『くるみ割り人形』を見てもらえればと思います。

その際には本ブログのロンドンの旅行記が参考になれば幸いです。

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