前回の記事では、ロマンティック・バレエの時代に、それまで男性の専売特許だったバレエが、次第に女性のものへと移り変わっていく様子をご紹介しました。

妖精や精霊を思わせる女性ダンサーの登場によって、舞台の主役が女性へとシフトしていったのは、たしかに大きな転換点でした。

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しかしこの時点では、まだ女性が目立つようになったという段階にすぎません。

ロマンティック・バレエは、女性が輝く時代の扉を開いたにすぎず、「バレエ=女性の芸術」というイメージが完全に定着したわけではなかったのです。

では、そのイメージが決定的になったのは、いったいいつなのか。

それが、19世紀後半にロシアで花開いたクラシック・バレエの時代でした。

ロマンティック・バレエが“流れを変えた”のだとすれば、本当に男性中心だったバレエにとどめを刺したのは、このクラシック・バレエだったと言えるでしょう。

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クラシック・バレエが「バレエ=女性」の”決定打”となった

19世紀後半、ロシアで生まれた

『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』

といった作品群。

これらはいまでも「バレエの王道」として上演され続けていますよね。

これらの作品が何をしたかというと

バレエの技術レベル
舞台装置や衣装の豪華さ
構成や演出の完成度

これらを、当時考えうる限界点まで引き上げたのです。

そしてその完成形が「バレエとは、女性の芸術である」というイメージの定着時期と、完全に重なってしまいました。

ここから先、バレエは「女性のもの」として固定化されていきます。

男性バレエダンサー脇に追いやられることになったこれらの要因を、もう少し詳しく見ていきましょう。

① 「グラン・パ・ド・ドゥ」の定型化― 男性は“支える役”へ ―

クラシック・バレエの時代に確立されたのが、グラン・パ・ド・ドゥという形式です。

グラン・パ・ド・ドゥとは、物語のクライマックスに主役の男女2人が

アントレ(二人で登場)
アダージョ(ゆっくりとした二人の踊り)
男性ヴァリエーション(ソロ)
女性ヴァリエーション(ソロ)
コーダ(軽快な二人の踊り)

の順番で踊り、作品を締めくくるクラシック・バレエの典型的な様式です。

これは主役の男女が踊る「二重奏」ですが、構造は非常に明確。

女性:回転、バランス、ポーズなど見せ場の連続
男性:リフトし、支え、女性を最高に見せる役割

もちろん男性にもソロがあり、踊りの技術は必要です。

しかし舞台上で強調されるのは、あくまで女性の技巧と美しさ。

観客の視線も、自然と女性に集中する構造が出来上がっていました。

こうして男性ダンサーは、物語の中心から後景へと押しやられていきます。

② 衣装とトウシューズの進化が女性技術を加速させた

衣装の変化も、流れを決定づけました。

ロマンティック・バレエの長いチュチュに代わり、クラシック・チュチュと呼ばれる短いものがが主流になります。

短く
水平に張り
脚全体がはっきり見えるデザイン

これは単なるファッションではありません。

短くなったチュチュは、足さばき・回転・細かなテクニックを観客に見せるための装置でした。

同時に、トウシューズも改良され、

より長いバランス
より難しい回転
より高い完成度

が求められるようになります。

こうして、女性ダンサーの技術革新だけが加速度的に進化していきました。

③ コール・ド・バレエが生んだ「女性の集団美」

そして決定的だったのが、コール・ド・バレエ(群舞)の存在です。

『白鳥の湖』の白鳥たちを思い浮かべてください。

数十人の女性
同じ衣装
寸分たがわぬ動き

この光景は、ストーリー以上に強烈な印象を観客に残します。

一人のスターではなく、統制された女性の集団が生む美と調和

これは視覚的なスペクタクルとして圧倒的で、「バレエ=女性の美」というイメージを決定的なものにしました。

最後に:男性中心のバレエは、ここで完全に終わった・・・

こうして見ると、クラシック・バレエは

技術
構造
衣装
群舞

あらゆる面で、女性が主役になるよう最適化された芸術だったことがわかります。

もはやこれは流行や偶然ではありません。

システムとして、構造として、男性中心だったバレエに、静かだが確実な「とどめ」が刺された、そんな瞬間だったのです。

そして私たちが今抱いている「バレエ=女性の世界」というイメージは、この時代に完成したものが、残像のように残っていると言えるでしょう。

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