「踊れてる人」に見えるかは「つなぎのパ(The connecting steps)」で決まる——バレエの助詞・助動詞論:踊りを文章として整えるステップたち
「つなぎのパ(The connecting steps)」がきれいかどうかで、センターレッスンや舞台での「踊れている感」が決まります😊
と、ある指導者がちょっと挑発的に言っていました。
ジャンプやピルエットのような派手なパは、どうしても目を引きます。
しかし観客が無意識に見ているのは、意外にその前後にある「つなぎ」の部分であったりするのです。
パ・ブレやパ・クーリュ、トンベ・パ・ド・ブレのような一見地味なステップこそ、ダンサーの質をはっきりと映し出します。
派手な大技よりも、こうした地味なステップの方が、実は数倍ごまかしが効きません。
体重移動、方向転換、ポジションの整理、音楽との関係性——それらがすべて露出してしまうからです。
今回は、この「つなぎのパ」の重要性について掘り下げていきます。
「つなぎのパ」は文章で言う「助詞・助動詞」
「つなぎのパ」がきれいでないと、文章でいえば助詞・助動詞が抜け落ちた文と同じような状態になります。
例えば
「私 今日 映画 見る 面白い」
と言われれば、まあまあの意味はわかりますが、どこかぎこちなく、美しくありません。
バレエも同じで
派手なパ=名詞や形容詞
つなぎのパ=助詞・助動詞
と考えるとイメージしやすいでしょう。
名詞や形容詞(ジャンプ、回転、ポーズ)だけが並んでいても、動きとしては成立します。
しかし「踊り」としての流れや文脈、美しさは、助詞・助動詞にあたるつなぎのパがあって初めて生まれます。
パ・ド・ブレ、クペ、グリッサード、シャッセなどは、単なる移動手段ではなく
踊りの文法そのもの
を決める重要な要素です。
ここが雑だと、どれだけ大技が決まっていても「文章がぎこちない踊り」になってしまうと言えるでしょう。
| 要素 | 文章での役割(助詞・助動詞) | バレエでの役割(つなぎのパ) |
| 主役 | 名詞・動詞(「私」「食べる」「走る」) | 大技(グラン・ジュテ、ピルエット) |
| 役割 | 単語同士を接着し、関係性を決める | ポーズとポーズを繋ぎ、流れを作る |
| 欠落すると | 「私・寿司・食べる」→ 意味は通じるが、幼稚で無機質 | 「飛ぶ・回る・止まる」→ ぶつ切りで、音楽性がない |
| 美しさ | 文脈のニュアンス、敬語などの情緒 | エポールマン(体の方向)、呼吸、足裏の粘り |
地味なのに情報量が多い「つなぎのパ」
つなぎのパは一見すると地味ですが、実は同時に多くの情報を処理しています。
移動(どこへ進むか)
方向転換(身体の向き・視線)
重心移動(軸脚のコントロール)
ポジションの整理(脚の配置・アン・ドゥオールの維持)
これらを一瞬で統合しながら行うため、見た目以上に高度な技術が要求されます。
観客が無意識に見ているのも、実はこうした部分です。
ジャンプの高さより、ジャンプの前後の歩き方を見れば、その人のレベルは一瞬でわかります。
ジャンプや回転など目立つものは、プロならみんな安定したレベルでできますので、あとは「つなぎのパ」で質が分かれてくるとも言えます。
大人バレエの場合なら、たとえジャンプが低くても、「つなぎのパ」が整っていれば「まあまあ踊れる人」に見えることがあるのはこのためであるとも言えるでしょう。
「つなぎのパ」の代表例
ここで簡単に、代表的な「つなぎのパ」を簡単に整理しておきましょう。
これらはすべて、単なる“つなぎ”でありながら、踊りの質を決定づける中枢部品です。
パ・ド・ブレ(Pas de bourrée)
三歩の連続で、どの方向にも移動できる代表的なリンクステップ。踊りの接着剤のような存在。
クペ(Coupé)
脚を入れ替えながら素早く重心を切り替える動きで、地味な動きでも技術が露出しやすい。
グリッサード(Glissade)
滑るような移動で、ジャンプへの準備動作として頻出。
シャッセ(Chassé)
追いかけるように脚を寄せて移動するステップで、方向性と音楽性の要。
トンベ・パ・ド・ブレ(Tombé pas de bourrée)
重心を落としながら次の動きへつなぐ代表的なフレーズ。
バランセ(Balancé)
左右に揺れながら移動するステップで、ワルツ的なリズム感の代表格。
ファイイ(Failli)
跳躍からの流れを作る軽やかな通過動作。
パ・ド・バスク(Pas de basque)
円を描くような移動で、方向転換と表現性を同時に担う。
コントルタン(Contretemps)
グランワルツなどで、方向転換するときに出てくるステップ。
パ・クーリュ(Pas couru / Pas de couru)
小走りのような助走ステップで、グラン・ジュテなど大技への「勢い」を作る重要パーツ。
最後に
ある先生が言っていました。
上手いダンサーは、ジャンプの着地から次の動きが始まるまで「何もしていない瞬間」すら踊っている
この「何もしていない瞬間」こそが、「つなぎのパ(The connecting steps)」の世界です。
派手なパの合間にある、地味で目立たない動き。
しかしそこにこそ、ダンサーの技術、音楽性、身体感覚、そして品格が宿ると言えます。
センターレッスンでは、どうしてもジャンプや回転に意識が向きがちですが、ぜひこの「地味な動き」も、メインの動きの一つとして、練習してもらえればと思います。
