「バレエは女性がやるものだから、大人の(アマチュア)男性は正直、入ってこないでほしい!!」

これは、どこかで聞いた話ではなく、実際にある大人バレエの女性に「バレエ教室は女性専用列車」と言わんばかりに、頂いた言葉です・・・。

言われた瞬間は、場の空気もありますし受け流すしかありませんでしたが、バレエの歴史を少しでもご存じの方は、バレエは男性が主体となって生まれ、男性だけが踊ってきた時代も長くあったことを知っています。

バレエの確立時期は、王や貴族の男性が踊り、「踊れること」そのものが権力教養の証で、男性社会だったということです。

今回は、そんな現代人が忘れてしまっているバレエのルーツを、少し気楽にご紹介してみます。

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宮廷バレエは王侯貴族の男性が踊った!

バレエの起源をたどると、16〜17世紀のフランスやイタリアで発展した宮廷バレエ(バレー・ド・クールBallets de cour)に行き着きます。

この時代のバレエは、今日のような舞台芸術というよりも、政治的儀式宮廷行事の一部としての性格が強いものでした。

主役を務めたのは、職業ダンサーではない男性である国王王侯貴族が中心。

当時のバレエは、「芸術家が観客に見せるもの」ではなく

統治者自身が身体を通して権威や秩序を示す表現手段

だったのです。

つまりバレエとは、王や貴族が自らの身分と力を可視化するための行為であり、「踊ること」は支配階級の男性にとって、ごく自然な役割だったのですね。

「踊れる男性貴族」であることは社会的ステータスだった!

当時の貴族男性に求められた教養は、知識だけではありませんでした。

ダンス・剣術・馬術——これらは身体を通じて身分を示す必須のたしなみだったのです。

とりわけバレエは、単なる余興ではなく・・・

政治力・社交力・自己統制能力を示す総合的な評価指標

でした。

舞踏会や宮廷バレエの場で

音楽を正確に聴き
決められたフォルムを守り
他者と呼吸を合わせ
優雅さと節度を失わずに踊る

これらができる男性は、「信頼できる人物」「統治能力を備えた人物」として評価されました。

逆に言えば、ステップを間違えること、身体の制御を失うことは、単なる恥ではなく、政治的な失点になり得たのです。

これは、かつて日本の社会で「接待ゴルフができること」が出世や信頼に直結していた状況に、よく似ていますね。

踊れる男性貴族であることは、明確な社会的資本だった時代なのです。

バレエを確立させたルイ14世自身が「踊る王」だった!

この流れを決定づけたとも言えるのが、歴史の教科書にもページが割かれる17世紀フランスの国王ルイ14世です。

彼は単なる王様だけではなく、自ら舞台に立つ、卓越したダンサーでした。

15歳のとき、宮廷バレエで「太陽」の役を踊ったことから、彼は

「太陽王(Le Roi Soleil)」

と呼ばれるようになるのです。

映画『王は踊る』でも出てきますので、未見の方はぜひご覧頂ければと思います。

ルイ14世はその後

王立舞踊アカデミーを設立
バレエの技術と体系を制度化

など現在のバレエの形を作る基礎を作りました。

絶対王政の象徴たる国王自身が、舞台の中心で踊る一流ダンサーだったという事実は

「バレエ=男性権力者の芸術」

ということの歴史的な裏付けと言えるでしょう。

最後に:バレエと男性は、本来切り離されたものではない

バレエは、「女性のための芸術」でも「中性的な表現」でもなく、もともとは男性が権力・教養・身体能力を示すための文化として成立しました。

現代において男性がバレエをすることに違和感を覚えるとすれば、それはバレエの様式や需要が変化し徐々に作られたイメージによるものに過ぎません。

バレエは本来、男性が踊ることで完成した芸術であった事実は、バレエスタジオで日々レッスンに取り組んでいる大人バレエの方も必須知識として知っておいてほしいところです。

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