『くるみ割り人形』といえば、クリスマスシーズンに欠かせない名作バレエですよね。
その中でも人気の高い曲と言えば、やはり「金平糖の精の踊り」が代表例として出てくるでしょう。
そしてその踊りをよりいっそう引き立てる楽器がチェレスタですね!
鐘のようにきらめく音が、金平糖の精の優雅で魔法のような踊りを見事に彩ってくれます。
ただ、実はチャイコフスキーは「金平糖の精の踊り」に必ずしもチェレスタを使わなくてもいいという指示をしています。
彼のスコアには
「チェレスタがない場合はピアノで演奏してもよい」
という指示が残されているのです。
今回はこのチャイコフスキーのチェレスタのピアノ代用可の指示に絞って見ていきましょう。
まずは実際のスコアに書かれている指示を見てみよう!
では本当に書いてあるかを、実際の画像で見てみましょう!
下のスコア画像は「金平糖の精の踊り」の踊りのスコア冒頭部分です。
チェレスタのパートの部分にロシア語が書かれていますよね(赤枠)
赤枠の部分を拡大してみましょう。
このロシア語の訳は
「チェレスタという楽器がない場合、そのパートをピアノで演奏してもよい。」
で、チェレスタが手に入らない場合の代替手段について書かれているのですね。
ピアノで代用してもいい理由
では、なぜチャイコフスキーはこのような注釈をスコアに残しておいたのでしょうか??
冷静に考えると当たり前のことですが、19世紀の当時、チェレスタはまだ珍しい楽器で、すぐに手に入るものではありませんでした(まあ、今でも手軽に入手はできませんが)。
もちろん、チェレスタで演奏した方がいいのですが、チェレスタに限定してしまうと演奏不可能な状態になってしまいます。
そこで、チャイコフスキーは
「チェレスタがなければピアノで代用してもいいよ!」
という柔軟な指示を加えたのですね。
確かに音色の違いはあるものの、ピアノでも「金平糖の精の踊り」の美しい旋律や構造は変わりません。
音色が異なることで少し現実的な印象にはなりますが、音楽としては十分に成立しますしね。
現代ではシンセサイザーで代用も可能
もっとも現代では、シンセサイザーや電子音源を使ってチェレスタの音色を再現することもできます。
オーケストラのリハーサルでは、実物のチェレスタが用意できない場合にピアノ以外にシンセサイザーを用いることがあります。
音響技術が進化したおかげで、かなりリアルなチェレスタ音が手軽に出せる時代になりました。
もちろん、本物のチェレスタの音には独特の空気感や響きがあり、電子音では完全には再現できません。
それでも、「金平糖の精の踊り」のように楽器自体が曲の象徴となっているケースの場合は、やはりチェレスタに近い音で演奏される方が本来の魔法のような響きに近い形でダンサーは踊ることができるでしょう。
最後に
「金平糖の精の踊り」といえば、チェレスタのきらびやかな音色が印象的ですが、チャイコフスキーは ピアノでも演奏可能という柔軟な指示を残していました。
いまほど運搬技術や物流網が多様化されていなかった時代は、やはり
絶対にチェレスタで演奏して!
とも言いづらいところがあったことでしょう。
現代では、ほとんどの公演でその美しい音色が聴けますが、もしもバレエの全幕上演でピアノ演奏された「金平糖の精の踊り」に出会うことがあれば、それは逆に非常に貴重な体験と言えるかもしれませんね!
次に『くるみ割り人形』を聴く際は、チェレスタの音に耳を傾けながら、チャイコフスキーの配慮に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。