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なぜ『くるみ割り人形』の「スペインの踊り」はチョコレートを象徴しているのか?けっして甘くはない歴史的背景のある踊りのご紹介

前に児童クラスの生徒から

「なんで『くるみ割り人形』の「スペインの踊り」チョコレートなんですか?」

と質問を受けました。

確かにスペイン産チョコレートの有名ブランドがあるわけでもないし、現代の人にとってはスペイン=チョコレートとはならないかもしれませんね。

『くるみ割り人形』の「スペインの踊り」の踊りが象徴するのはチョコレートですが、今回はなぜそうなったかの背景と歴史をご紹介します。

チョコレートの文化的発祥はスペイン。

結論から言うと、チョコレートの原料となるカカオヨーロッパに初めてもたらされた国がスペインだからです。

カカオは紀元前2000年ごろから中央アメリカ周辺で栽培されていたとされ、その後は、マヤ文明やアステカ文明でカカオが重要な役割を果たし、飲料として消費されるだけでなく、儀式通貨にも用いられていました。

そして16世紀初頭、スペインの征服者エルナン・コルテスがアステカ帝国を征服した際、カカオ豆をスペインへ持ち帰ったとされています。

当時のカカオ飲料は「ショコラトル」と呼ばれ、特権階級のみが楽しむ贅沢品でした。

今はコンビニで簡単に手に入るチョコレートも昔は一部の人しか口にできない高級品だったのですね。

やがて砂糖やシナモンが加えられ、改良されたチョコレートはスペインから徐々にヨーロッパ全土へ広がっていきました。

チャイコフスキーが作曲した当時も、チョコレートはスペインから波及していったという認識があったので、「スペインの踊り」はチョコレートの象徴となったのですね。

ちなみにチョコレートの語源は、スペイン人がマヤ語の“チョコル”(熱い)とアステカ語の“アトル”(水)を組み合わせて作った新語だとも言われています。

このことからも、スペインはチョコレート文化がヨーロッパに広まるきっかけとなった中心的な国であることが伺えますよね。

チョコレートの甘くはない歴史

このようにスペイン人が新大陸からカカオを持ち帰ったことで、ヨーロッパにチョコレート文化が生まれ、そこから時が流れて「スペインの踊り」はチョコレートを表すことになったわけですが、冷静に考えるとその背後には、けっして甘くはない歴史もあることも知っておくといいかもしれません。

スペインに伝わったと言われますが、ストレートに言えば、結局のところ大航海時代にスペインが南米を侵略して植民地化し、カカオ豆を強奪していったわけですからね・・・。

また、カカオの生産には労働力が必要であり、搾取植民地政策がその供給を支えるようになった歴史もあります。

カカオはアフリカ南米プランテーションで生産され、多くの場合、過酷な労働条件の下で働く労働者たちによって栽培されました。

このような歴史を知ることで、私たちはチョコレートをただの嗜好品としてではなく、複雑な背景を持つ文化遺産として見ることもできます。

苦味を知る者だけが、本当の甘さを味わえる。

と言えますが、「スペインの踊り」を鑑賞したり踊ったりする中で、このような歴史的背景も知っておくと、表面的な楽しさだけでなく深い文化的背景や歴史的教訓を読み取ることができ、作品への理解が深まるでしょう。

最後に

チョコレートは苦みの成分も含まれていて、実はそれが甘さを引き立てていことに一役買っています。

甘さと苦さが交じり合い、美しい調和を奏でているのがチョコレートなのですね。

「スペインの踊り」がなぜチョコレートの象徴となったかのお話しをしましたが、チョコレートの苦い歴史と現実も知ってこそ「スペインの踊り」の踊りの甘さも感じることができるでしょう。

ぜひチョコレートの象徴的意味も考えながら、「スペインの踊り」の踊りや演奏に取り組んでもらえればと思います。