『くるみ割り人形』はクリスマスシーズンに欠かせないバレエ作品ですが、その中の「トレパック(ロシアの踊り)Trépak」が何のお菓子の精なのか、ご存じでしょうか?
「チョコレート(スペインの踊り)」「コーヒー(アラビアの踊り)」のように、明確にお菓子と結びつけられていないため、意外と何のお菓子であるのかは知られていないかもしれません。
今回は、このトレパックにまつわるお菓子と、その背景にある舞踊のルーツについて詳しく解説していきます。
トレパックは「大麦糖の精の踊り」と言われている。
トレパックの踊りは、「大麦糖の精の踊り」とも言われています。
大麦糖(バーレーシュガーbarley sugar)は、16〜17世紀のフランス宮廷で珍重された飴菓子で、ねじり棒のようなキャンディーの一種とされています。
この飴菓子は透明で硬く、素朴ながらも甘みが強いのが特徴です。
一方で、トレパックは「生姜入りパン生地でできた人型のお菓子」とする説もあります。
これが何を指すのか明確ではありませんが、ロシアや東欧でよく見られるジンジャーブレッドのようなお菓子をイメージするとわかりやすいかもしれません。
初演時の名称は「Russian Candy Canes」
『くるみ割り人形』の初演(1892年)では、「トレパック(Trépak)」は「Russian Candy Canes」として紹介されました。
上の動画はバランシン版の『くるみ割り人形』ですが、初演に近い形の振付と言われています。
キャンディケイン(キャンディケーン)とは、赤と白の縞模様が特徴的な杖の形をしたキャンディで、クリスマスの時期におなじみのお菓子です。
キャンディケインの起源は15世紀のフランスにさかのぼり、当初は白一色で、まっすぐな形状でした。
1670年、ドイツのケルン大聖堂の聖歌隊長が、子供たちへの贈り物として杖の形に曲げたのが、現在の形状の始まりと言われています。
キャンディケインには、次のような象徴的な意味があります。
●杖の形は羊飼いの杖を表している
●逆さにすると「J」の形になり、イエス・キリストを象徴する
●赤はキリストの血と愛を、白は純潔を表す
このように宗教的な意味合いが強いキャンディケインですが、『くるみ割り人形』では、ロシアの伝統舞踊と結びつけられました。
トレパックの舞踊のルーツは「コサックダンス」
トレパックは、ロシアの農民たちの間で踊られていた古い民謡舞踊の一種とされています。
しかし、実際にはウクライナの伝統的な民族舞踊「ホパーク(Hopak/Gopak)」が元になっています。
ホパークは16世紀初頭のウクライナ・コサックの時代に発展し、コサックダンスとして広まりました。
この踊りの特徴は、激しいジャンプ、アクロバティックな動き、スクワットの姿勢を取りながらの素早い足さばきなど、エネルギッシュなパフォーマンスにあります。
男性は跳躍やスクワットを多用し、女性は軽やかで柔軟なステップを踏むのが特徴です。
チャイコフスキーの時代、ウクライナはロシア帝国の一部だったため、この踊りは「ロシアの踊り(Russian Dance)」として紹介されました。
しかし、現在では「トレパック=ウクライナの踊り」という認識が広まっています。
下の動画では、コサックダンスっぽい動きを最後の盛り上がりでしていますよ。
現代のトレパックは??
『くるみ割り人形』では、「スペインの踊り(チョコレート)」「アラビアの踊り(コーヒー)」「中国の踊り(お茶)」のように、明確にお菓子と結びついたタイトルが付けられています。
しかし、トレパックは「ロシアの踊り(Russian Dance)」という名称のままで、具体的なお菓子の名が付けられることはほとんどありません。
これは、大麦糖やキャンディケインが現代の観客にはあまり馴染みがないことが理由の一つかもしれません。
しかし、元々の設定や背景を知ることで、演じる側や観る側の理解も深まり、より一層『くるみ割り人形』の世界観を楽しむことができるでしょう。
最後に
『くるみ割り人形』は、クリスマスを彩る華やかな作品ですが、その一つ一つの踊りには意外な歴史や背景が隠されています。
次にトレパックTrépakを観る際には、ぜひそのルーツを思い浮かべながら楽しんでみてください!
●トレパックは「大麦糖の精の踊り」とされることがある。
●初演時には「Russian Candy Canes」と呼ばれ、キャンディケインを象徴していた。
●トレパックの踊りは、ウクライナの伝統舞踊「ホパーク」(コサックダンス)が元になっている。
●現代ではお菓子の名称が付かず、単に「ロシアの踊り(Russian Dance)」と紹介されることが多い。