『くるみ割り人形』の「葦笛の踊り」といえば、ソフトバンクのCMでお馴染みの曲ですよね。
もはや日本人はこのメロディを聴くと「白い犬」しか思い浮かばないかもしれませんが、バレエ愛好家にとっては、元の踊り自体にも注目してほしいところです。
この「葦笛の踊り」には、実は複数の意味が込められているのですが、バレエファンでも意外に知られていないところです。
今回は様々な解釈ができるこの踊りの魅力を掘り下げていきましょう!
「葦笛の踊り」の原題をチェック!
始めにですが、この踊りは国や言語によって異なるタイトルがつけられています。
それぞれが原作や振付の意図をどのように解釈するかによって変化しており、下にあるように複数の意味が複合して成り立っているのです。
フランス語:Danse des mirlitons(ミルリトンの踊り)
ロシア語:Танец пастушков(羊飼いの踊り)
英語:Dance of the Reed Pipes または Dance of the Reed Flutes(葦笛の踊り)
日本語では「葦笛の踊り」が一般的ですが、バレエ団や教室によっては個性を出すために、あえて「ミルリトンの踊り」などと表記されることもあります。
このタイトルの違いだけでも、「葦笛の踊り」には複数の意味合いがあることが分かりますね。
ここから、それぞれの意味を詳しく見ていきましょう。
フランス語:Danse des mirlitons(ミルリトンの踊り)
『くるみ割り人形』のディベルティスマン(お菓子の国の踊り)は、基本的に食べ物や飲み物をテーマにした精霊たちの踊りでなっています。
この「ミルリトン」も、フランスの伝統的なお菓子に由来すると考えられます。
ミルリトン(Mirliton)は、ノルマンディー地方の「ルーアン」という都市で親しまれているタルトレットの一種で、「Mirlitons de Rouen(ルーアンのミルリトン)」とも呼ばれます。
さらに、この「ミルリトン」には、葦笛もしくはおもちゃの笛(カズー)を指す言葉でもあります。


つまり、この踊りのタイトルには「お菓子」と「笛」の両方の意味が込められているのですね。
振付家がチャイコフスキーに示した作曲指示書には
「薄い膜で両端が塞がれた、葦で作られた笛を吹きながら、彼らは踊る」
と記されているので、まさに「ミルリトン」というタイトルがピッタリと言えます。
バレエではフランス国旗をモチーフにした衣装を身にまとったり、笛を持ちながら踊ったりする踊りが多いです。
ロシア語:Танец пастушков(羊飼いの踊り)
ロシア語のタイトル「羊飼いの踊り」。
これは、『くるみ割り人形』の原作のアイデアに由来します。
羊飼いが笛を吹いているイメージが強調されており、実際に原作でも羊飼いたちが笛を吹き、それに合わせて踊ったという描写があります。

おそらく、この要素がロシア語版のタイトルに反映されたのでしょう。
フランス語の「ミルリトンの踊り」はお菓子と笛の意味が強調されていて、ロシア語の「羊飼いの踊り」は、原作にある羊飼いのイメージから導き出したものと言えます。
それぞれ異なる視点からタイトルがつけられているのが面白いですね。
英語:Dance of the Reed Pipes(葦笛の踊り)
英語のタイトルは「葦笛の踊り」となっています。
これは、ミルリトンが持つ「笛」の意味を強調して訳されたものと考えられます。
実際にこの曲では、フルート3本が大活躍しており、その特徴を反映したタイトルとも言えます。

また、「reed(葦)」という単語が使われていることからも分かるように、単にフルートではなく、「リード楽器のような笛」だということが意識されています。
つまり、英語のタイトルでは楽器の要素を最も強調していることが分かりますね。
「葦笛の踊り」に含まれる重層的な意味まとめ
これまで見てきてわかるように、「葦笛の踊り」には複数の意味が込められています。
解釈 | 内容 |
---|---|
お菓子の精 | フランスの伝統菓子「ミルリトン」 |
人間 | 羊飼い |
楽器 | 羊飼いが吹く葦笛(ミルリトン) |
演奏 | フルート3本の活躍 |
国 | フランス(衣装やタイトルに反映) |
意図的なのか偶然なのかは分かりませんが、「ミルリトン」という単語が持つ複数の意味が絶妙に絡み合い、音楽やバレエの演出と結びついた踊りになっているのですね。
最後に
「葦笛の踊り」は可愛らしいメロディの踊りというだけでなく、「お菓子」「羊飼い」「楽器」といった複数の意味が重なり合った作品です。
フランス(国)、羊飼いの笛(イメージ)、そしてお菓子(ディヴェルティスマンのテーマ)など―― どれが正解というわけでもなく、いろんな要素が絡み合っているのがこの踊りの魅力ですね!
「白い犬のCM曲」としてだけでなく、ぜひ『くるみ割り人形』の奥深さを楽しんでみてくださいな!
