『白鳥の湖』第2幕、オデットとジークフリート王子が踊る「グラン・アダージョ」。
二人の心が通い合っていく様子を表現したような、あの美しい旋律には意外なルーツがあります。
それは、チャイコフスキー自身が作曲したオペラ《ウンディーナ》の二重唱です。
今回は、二つの作品の音楽を聴き比べながら、チャイコフスキーの巧みな音楽の再利用について紹介します。

元曲はオペラ《ウンディーナ》の二重唱だった!

まずは、リサイクル資源になった元の音楽を聴いてみましょう。

【動画:《ウンディーナ》の二重唱】

オペラでは、水の精ウンディーナとフルトブラントが歌い交わす二重唱として登場します。
続いて、『白鳥の湖』の音楽を聴いてみてください。

【動画:『白鳥の湖』第2幕・オデットと王子のグラン・アダージョ】

いかがでしょうか?
旋律を聴き比べると、二つの作品のつながりが見えてきます。

オペラでは歌手の声によって表現されていた音楽が、『白鳥の湖』では独奏チェロとヴァイオリンによる旋律へと姿を変えています。
人間の声で歌われていた愛の二重唱が、楽器同士の対話になったわけです。

同じ音楽でも、歌詞や歌声があるオペラと、踊りやオーケストラで物語を描くバレエでは、受ける印象も変わります。
『白鳥の湖』では、オデットと王子の心の交流を感じさせる音楽として、新たな魅力を放っていますよね。

《ウンディーナ》ってどんな作品?

《ウンディーナ》は、チャイコフスキーが作曲に着手したものの未完に終わったオペラです。
ドイツの作家フリードリヒ・フーケの物語をもとに、水の精ウンディーナをめぐる物語が描かれています。

【フリードリヒ・フーケの小説『ウンディーネ』(1811年)】
有名なロマン派文学作品で、騎士フルトブラントと結婚して魂を得たウンディーネが、夫の裏切りによって悲劇的な結末を迎える物語。フレデリック・アシュトンのバレエ『オンディーヌ』(1958年)もこの小説から派生した作品の一つ。

オペラは舞台で上演されることはなく、作曲者は後に総譜を破棄していますが、音楽のすべてが消えたわけではありません。
1870年3月28日、モスクワのボリショイ劇場で行われた上演では、アリア、二重唱、最後の合唱など、残っている5つの楽曲のうち少なくとも3曲が演奏されました。
これらの音楽は写譜などによって残り、現在まで伝えられています。

二重奏の部分以外にも、チャイコフスキーは《ウンディーナ》の音楽を別の作品に転用しました。
ウンディーナのアリアは劇付随音楽《雪娘》のレルの歌に、結婚行列の音楽は交響曲第2番「小ロシア」に姿を変えていたりしています。

《ウンディーナ》の音楽 再利用された作品
序曲(導入曲) 劇付随音楽《雪娘》の序曲
ウンディーナのアリア 劇付随音楽《雪娘》のレルの歌
第3幕の結婚行列 交響曲第2番「小ロシア」第2楽章
ウンディーナとフルトブラントの二重唱 バレエ『白鳥の湖』第2幕の音楽

最後に――チャイコフスキーの「使いまわしの妙技」

作曲家が過去の作品から音楽を再利用すること自体は、珍しいことではありません。
今回ご紹介した通りチャイコフスキーも、自分が書いた旋律を別の作品に生かしていました。

興味深いのは、音楽が新しい物語の中で別の役割を与えられていることです。

《ウンディーナ》では、水の精と人間の愛を描くオペラの二重唱。
『白鳥の湖』では、オデットと王子の心の交流を彩るバレエ音楽。

同じ旋律が、歌声からチェロとヴァイオリンへと姿を変え、異なる作品の中で生き続けています。
幻のオペラから、今も世界中で上演されるバレエの名場面へ。
《ウンディーナ》の音楽をたどると、チャイコフスキーの「使いまわし」は、単なる再利用ではなく、過去の音楽に新しい命を吹き込む創作の技でもあったことがわかります。

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