バレエ

バランシン版『タランテラ』:本当に死に至らしめる毒蜘蛛バレエ Balanchine’s “Tarantella”

『タランテラ』という言葉を聞くと、『くるみ割り人形』の男性ヴァリエーションよりも真っ先に、ジョージ・バランシンの『タランテラを思い浮かべるバレエファンも少なくないでしょう。

毒グモ伝説からバレエへ―『くるみ割り人形』男性ヴァリエーションとタランテラの魅力 The Nutcracker Act 2 No.14 male variation「Tarantella」第14曲 パ・ド・ドゥ (Pas de deux) 【金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥ】は以下の構成で成り立っています。 アダー...

ブルノンヴィル振付による『ナポリ』のタランテラもありますが、だいたいのバレエファンはバランシンを思い浮かべるし、発表会で踊った人もいるはずです。

今回はこの数多きタランテラの中でも、バランシン『タランテラ』に絞ってご紹介したいと思います。

バランシン版『タランテラ』の作品概要

この作品は1964年1月7日、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)で初演されました。

初演のために選ばれたのは、当時NYCBのスター、エドワード・ヴィレラとパトリシア・マクブライドで、下に彼らが踊る動画を挙げておきますね。

音楽はルイス・モロー・ゴットシャルク(Louis Moreau Gottschalk)「グラン・タランテラ(Grande Tarantelle)」を使用しています。

ゴットシャルクは19世紀アメリカの作曲家で、南国的で陽気なメロディラインにクラシックの技巧を融合させるのが得意でした。

バランシン版『タランテラ』の作品背景

バランシンは様々な国のキャラクターダンス民族舞踊の要素をクラシックバレエに取り入れる名手でした。

たとえば

『スコッチ・シンフォニー』 ⇒ スコットランド
『ウェスタン・シンフォニ』ー ⇒ アメリカ西部
『ジュエルズ』
エメラルド(フランス)・ルビー(アメリカ)・ダイヤモンド(ロシア)

『スターズ&ストライプス』 ⇒ アメリカ
『アポロ』 ⇒ ギリシャ・ローマ

があり、本人はロシア出身(ジョージア人)にもかかわらず、アメリカに渡り、いろんな国の文化を表現してきたと言えます。

この『タランテラ』では、南イタリアの民族舞踊のエッセンスをそのまま舞台上に持ち込みつつ、超絶技巧のクラシック・テクニックをふんだんに盛り込んでいます。

二人の軽快な足さばき、信じられないほどの回転数、そして息の合った掛け合いが観客を熱狂させます。

バランシン版『タランテラ』振付の特徴

振付の特徴をさらに挙げると、以下のようになります。

【男女ペアの掛け合い】
男性のジャンプや回転、女性の速い足さばきや細かいステップが交互に繰り出され、まるで舞台上で会話しているようです。

【キャラクターダンスの色合い】
タンバリンを小道具として使用し、民族舞踊の雰囲気を濃厚に演出している。

【爆発的なテンポ】
ゴットシャルクの音楽は休む間もなく突き進むため、ダンサーはほぼ全編にわたり全力疾走状態で、観客も息をつく暇がないほどです。

【コミカルなやりとり】
真剣勝負の技巧の中に、バランシンらしいウィット茶目っ気が散りばめられています。

約6分間の長距離マラソンを走り抜かなければならないので、ダンサーにとっては拷問のような作品ですね(笑)

最後に

『タランテラ』は約6分間の作品ですが、終わった瞬間、客席が大きく沸き立つタイプの演目です。

民族舞踊の陽気さと、バランシン特有の洗練・スピード感が融合しており、南イタリアの太陽の下で全力疾走するような爽快感があります。

『くるみ割り人形』の男性ヴァリエーションと比べると、こちらはペアでの駆け引き遊び心が強く、また違った魅力を持っていると言えるでしょう。