バレエの基本であり、最も重要とも言われるのが

アン・ドゥオール(en dehors)

です。

英語ではターンアウトと呼ばれます。

 

アン・ドゥオールとは、股関節を起点に脚全体を外側へ回旋させて使うことを意味し、単に足先を外に向ける動作とはまったく異なります。

フランス語で「外側へ」という意味を持つこの言葉は、バレエの動きそのものの考え方を象徴しています。

今回は、このバレエの根幹をなすアン・ドゥオールについて、仕組みから美的な意味までを丁寧に見ていきましょう。

アン・ドゥオールの仕組み

アン・ドゥオールで最も重要なのは

どこから回すのか

という点です。

回転の起点は足先でも膝でもなく、必ず股関節、つまり脚の付け根になります。

太ももの骨である大腿骨が、骨盤の中のソケットで外側へと回旋していくイメージを持つことが大切です。

見た目には分かりにくいものの、アン・ドゥオールの質を大きく左右するポイントですし、次にお伝えするように、怪我につながってしまうような重要ところです。

よくある間違いと注意点

アン・ドゥオールは、無理に180度開こうとすると、かえって体を壊してしまうことがあります。

特に多いのが、膝から下だけで足先を外に向けようとするケースです。

この状態では膝がねじられ、靭帯に過剰な負担がかかってしまいます。

また、脚を開こうとするあまり骨盤が前後に傾き、出っ尻反り腰になってしまう人も少なくありません。

こうなると、アン・ドゥオールに必要な筋肉がうまく使えず、見た目にも不安定な姿勢になります。

さらに、足の土踏まずが潰れて内側へ倒れ込むローリングも注意が必要です。

足元の崩れは、アン・ドゥオール全体の質を大きく下げてしまいます。

アン・ドゥオールの指導方法や考え方は、先生によってアプローチが異なる場合があります。

また人それぞれ骨格も微妙に異なっています。

そのため、自己流で判断せず、必ず教室の先生の指示を優先して取り組んでもらえればと思います。

なぜバレエで「アン・ドゥオール」が必要なのか?

バレエのすべての動きは、アン・ドゥオールを土台として成り立っています。

たとえば、脚を横や後ろに高く上げるデヴェロッペのような動きでは、アン・ドゥオールができていないと股関節が途中でロックされ、それ以上脚が上がらなくなってしまいます。

股関節を外に回旋することで可動域が広がり、より大きく、そして無理のない脚の動きが可能になります。

また、正しくアン・ドゥオールができると体幹が安定し、バランスが取りやすくなります。

1番ポジションや2番ポジションで両脚を外側に開いて立つのは、外側と内側の筋肉をバランスよく使うためです。

この安定した土台があるからこそ、ルルベや片足立ち、回転といった動きでも身体がぶれにくくなります。

さらに、アン・ドゥオールは見た目の美しさにも大きく関わっています。

脚のラインが客席から見て一直線に整い、実際よりも長く、優雅に見える視覚的な効果を生み出すのです。

次にアン・ドゥオールがもたらす「美的効果」を見ていきましょう。

アン・ドゥオールが生み出す「美的効果」

アン・ドゥオールは、単なるテクニックではなく、バレエ特有の非日常的な美しさを支える根本的な要素です。

まず、脚を外旋させることでかかとが前に出やすくなり、足の甲からつま先までのラインが途切れずにつながります。

その結果、脚全体がより長く、しなやかに見えるようになります。

正しい回旋は膝の向きも整え、脚のラインをすっきりと美しく見せてくれます。

さらに、アン・ドゥオールが加わることで、ポーズに立体感奥行きが生まれます。

正面を向いたまま脚を上げるだけでは平面的になりがちですが、外旋が入ることで、彫刻のような三次元的な美しさが現れます。

どの角度から見ても脚の内側や裏側のラインが感じられ、動きに深みとエレガンスが加わるのです。

そして、バレエの理想である「重力を感じさせない動き」も、アン・ドゥオールによって支えられています。

股関節が自由に動く状態になることで重心移動が滑らかになり、無駄な力みが消えていきます。

脚を高く上げるときにも構造的な詰まりが起きにくくなり、苦労を感じさせない「軽やかさ」や「しなやかさ」を演出できるようになります。

最後に

アン・ドゥオールは、単なる「足の向き」のことではありません。

それは、空間の中で自分の身体を最大限に美しく、大きく見せるための知恵です。

バレエの創成期から受け継がれてきた、基本でありながら本質的な美的概念であり、そこから足のポジションアラベスクの形が発展してきました。

アン・ドゥオールを理解することは、テクニックを身につけること以上に、バレエという芸術がなぜ美しいのかを理解することでもあるのです。