バレエ

『くるみ割り人形』の第3曲「子供たちの小ギャロップと両親の登場」の魅力をたどる

『くるみ割り人形』の序盤、パーティーの熱気が高まる中に登場するのが、第3曲「子供たちの小ギャロップと両親の登場(Petit galop des enfants et entrée des parents)」です。

この曲、実は単なる“つなぎ”では終わらない、音楽と舞台の魅力が凝縮された場面です。

今回はその構成や音楽の仕掛けをひもときながら、クララたちの夜に迫っていきましょう!

この曲ってどんな場面!?

この曲は、第2曲「行進曲」の盛り上がりの後から、ドロッセルマイヤーが登場する直前までを彩ります。

子どもたちがクリスマスパーティーで元気にはしゃぎ、そこへ大人たち(招待客)が登場し、一緒に踊ったり会話したりする場面です。

演出によっては、大人たちの踊りがしっかりと組み込まれていることもあり、特に日本の発表会では「大人バレエ」の見せ場になったりします。

マイムと踊りが絶妙に入り混ざる、まさに演技と音楽がひとつになる場面なのです。

内容的には3部構成

曲名だけを見ると「子供」と「両親」の2つの場面だけのように思われがちですが、実は中身は以下のような3部構成になっています。

①小ギャロップ(Petit galop)
②大人たち(招待客)の登場
③子供と大人がまじわる踊り(フランス俗謡の引用)

音楽は①から②へは切れ目なく続いていて、拍子が自然に2拍子から3拍子へと変わるのに、それをまったく感じさせないある意味技巧的な曲です。

ただ踊る側にとってはカウントをする際は注意が必要なところと言えます。

それでは各場面ごとの詳細を見ていきましょう。

①小ギャロップ:子どもたちの駆けまわり

「ギャロップ(galop)」とは元々「馬の駆け足」のこと。

この曲では、子どもたちがパーティー会場を元気いっぱいに駆けまわる様子が描かれます。

リズムは2拍子で、前曲「行進曲」の熱気を引き継ぎながら、いたずらっぽさや好奇心、そして無邪気さにあふれています。

演出によっては、すでにこのあたりから大人が姿を見せ始める場合もあり、子どもたちとの軽快なやりとりが微笑ましい雰囲気を生みます。

②大人たちの登場:気品と社交の雰囲気

音楽は途切れることなく、ふっと3拍子に切り替わり、招待された大人たちが登場します。

下の楽譜にあるように、フルートとクラリネットが16分音符4つのかたまりで吹いているのおかげで、曲想がかわっても気にならず、音楽の表情が滑らかに変化します。

赤枠は「①小ギャロップ」の最後
青枠は「②大人たちの登場」の登場の始まり

この部分では、大人たちが舞踏会風のエレガントなステップを披露する演出も多く、舞台によっては気品ある社交ダンスのような振付がなされます。

下の動画は「②大人たちの登場」から始まるように設定してあるので、参考にしてみください。

ちなみに、チャイコフスキーへのプティパ(振付家)の作曲指示書には

アンクロワイヤブル風の衣装を着た両親の入場

と記されています。

アンクロワイヤブル(Incroyables)はフランス革命後のファッションで、奇抜かつ大胆な装いで、派手な色や装飾、極端なシルエットが特徴です。

女性はメルヴェユーズ(Merveilleuses)と呼ばれ、透けるドレスや赤いリボンなど、同じく大胆な装いが特徴でした。

だから舞台によっては、ユニークで派手な衣装の登場人物が出てきたりして、見た目的にも楽しめる演出になることもあります。

③子供と大人まじえての踊り:俗謡「よい旅を、デュモレさん!」の引用

音楽はいったん止まり、譜面上にはフェルマータ(長く伸ばす記号)が置かれています。

そこから始まるのが、フランスの俗謡

《Bon voyage, Monsieur Dumollet》

の引用による、陽気で軽やかな小さな踊りです。

タイトルを日本語に訳すと

「よい旅を、デュモレさん!」

となり、まるでクララのこれからの“夢の旅”を先取りするような意味合いをもっているのが絶妙なチョイスと言えます。

この構造、ちょっと映画『サウンド・オブ・ミュージック』「ドレミの歌」での

「ファ(Far)=a long, long way to run」

が、家族の亡命を暗示していたのと重なって聞こえたりもしますね。

そしてこのDumoletの一節が終わると、音楽はぷっつりと終わる――それはまさに、ドロッセルマイヤーの登場の前の“静けさ”。

これから物語が動き出すぞ、という空気を作り出してくれる場面切り替えの役割を果たしています。

下の動画は「③子供と大人まじえての踊り」から始まりますので、踊りや鑑賞の参考にしてみください!

最後に

この「第3曲」はただのつなぎの曲ではありません。

マイムと踊り、子どもと大人が一緒に楽しむクリスマス・パーティーが最高潮となる場面です。

ぜひバレエ鑑賞のときは、「ドロッセルマイヤーの登場を待つ時間」ではなく、その前に広がる小さなドラマにも目を向けてみてくださいな♪