バレエ

レッスンは自分のペースで上達を楽しむ― 男性大人バレエの「比べない勇気」 ―

大人バレエはプロになるわけではないから、楽しみを優先すればいい・・・。
そう頭では分かっていても、レッスンで周囲の動きについていけないと、自分だけ置いていかれたような気がして、いたたまれなくなる――

ある男性の大人バレエ初心者がそう語っていました。

確かにレッスンをしていて、上手な人の動きを見てレベルの差を感じることは、大人バレエをしている人なら誰もが経験するものです。

特に男性の場合、女性ばかりのクラスではどうしても差から来る柔軟性などを比較してしまい、より自分がみじめに感じてしまうかもしれません。

今回は、そんな悩める男性大人バレエの仲間たちに贈る「心の整え方」の話です。

(意味もなく)比較してしまう瞬間の具体例

まず勝手に比較して、勝手に落ち込んでしまう場面の具体例を挙げてみましょう。

もしかして「男性大人バレエ初心者あるある」なのかもしれません。

【男性に対して】

ピルエットで3回転以上を軽々と回る男性

自分は1回でも精一杯なのに、隣では音楽に合わせて美しく3回転している。その軸のブレなさを見るたびに、思わずため息が出てしまう・・・。

ステップ(特にアレグロ)をすぐに覚えてしまう男性

先生のデモンストレーションを一度見ただけで、次の瞬間には音楽に合わせて正確に動ける。自分は音楽が鳴り始めてもまだ脳内整理中で、頭と体がつながっていかない。・・・

トゥール・ザン・レール(5番ポジションからその場でジャンプをして空中で回転し着地するテクニック)を美しく安定した2回転をする男性

自分は1回転でさえグダグダで、時には床に倒れこんでしまうこともあり、なんだか情けなくなる。

【女性に対して】

開脚で180度以上開いたり、完璧なスプリットをする女性

自分は100度くらいでプルプル震えているのに、周囲の女性はは床に胸をつけてストレッチしていて、まるで別世界に迷い込んでしまったかのように感じる・・・。

アラベスクで同じ人間とは思えないぐらい後ろ脚が高く上がっている女性

水平まで上げるなんて論外で、床から少し離れたぐらいしか後ろ足を上げられないのに、隣では女性が水平以上に軽やかに上がっていてビビる・・・。

4人1組で息の合ったグランワルツを美しく舞っている女性

柔らかさも軽さも違い、質感がまるで違うように見えて、居心地が悪くなる。レオタード姿の女性たちの中で、自分の動きが“浮く”ように感じる・・・。

女性に対してだと、生物学的に関節や筋肉のつき方や骨盤の構造が異なるため、どうしても埋めにくい性差があり、努力だけでは超えにくい部分もある現実の中で、「比べたら落ち込む」構造ができてしまうのかもしれません。

「比較のループ」からの脱出方法

では、どうすればいいのか。

ここからは「比較のループ」から抜け出すための考え方をいくつか紹介します!

「比較」ではなく「観察」に変える!

比較することは悪いことではありません。

でも、他人の動きを見て落ち込むのではなく、体の使い方や動きを観察して学びに変えましょう。

単純な比較は消耗するだけですが、観察は成長につながります。

自分より上手な人は、目指すべきモデルとなりますので、ある意味いろいろ技術を盗んでいくチャンスとも言えます。

「昨日の自分」とだけ比べる!

「先生の出す振りを追うことができた!」
「バーで姿勢を崩さず終えられた!」
「ピルエットを(まがいなりにも)2回転できた!」

そんな“自分史上”の進歩をちゃんと見るように意識していきましょう。

バレエレッスンでは身体の引き上げが大事ですが、気持ちの面においても精神的な引き上げは重要な要素です。

プロを目指すのでなければ、「楽しむ」ことを重視して!

プロを目指しているなら別ですが、私たち大人バレエは楽しむために踊っています。

だから、たとえば無理に開脚180度を目指す必要なんてありません。

草野球の人が、150キロの剛速球を投げる練習を毎日するでしょうか!?

きっとしないですよね♪

それと同じで、私たちも自分の年齢や身体に合った動き方を見つけていけばいいのです。

 男性大人バレエにおける身体的特徴と方向性

最近では、都内にも男性も受講できるクラスが少しずつ増えてきました。

それでも多くの男性は女性ばかりの中でレッスンを受けることになります。

ただ男性大人バレエには、男性にしかない特徴と美しさがあり、“女性と同じ基準”で測ってはいけない側面もあります。

バレエの基本的な動きは同じでも、女性の体の使い方をそのまま真似することは、レッスンの方向性が違ってきてしまうので、男性大人バレエの特徴を整理しておきましょう。

柔軟性は「目的」ではなく「可動域を確保するための準備」

筋肉や股関節の可動域は男性と女性とでは構造的に異なる部分があるので、新体操をやっていた人・もともと身体が柔らかい人以外の男性が極端に柔軟性を追求すると、オーバーストレッチとなり体を痛めてしまうことがあります。

焦らず、少しずつ、自分のペースで体と対話しながらストレッチしていくことが重要で、周囲の女性を真似てゴリゴリに柔軟運動をすることには慎重になりましょう。

男性の強みは「飛んで飛んで、回って回って」

高く舞い上がるジャンプからの安定した着地。
軸のぶれない3回転以上のピルエット。

男性バレエの魅力は極端に言えば・・・

「飛んで飛んで、回って回って」

に集約され、これこそ女性には出せない大きな特徴と言えます。

「女性と同じ基準」で測らない勇気

ざっくりとした言い方ですが、女性は「しなやかさ」で魅せ、男性は「力強さと安定感」で魅せるのが違いです。

「柔らかい体」も大事ですが「しなやかな筋肉」で持って力強さを示すことも大事なので、“バネ”のある体を目指すことが必要となってきます。

初めのの基本的なステップは同じでも、踊りの目指すべき方向性は異なるので、同じ物差しで測ることは間違いです。

最後に

つい自分と周囲を比較してしまうのは人間の性

でも、大人バレエは競技ではなく、音楽と自分の身体を対話させる時間です。

最初はアラベスクの脚が90度まで上がらなくても大丈夫。

それほど上げることができなくても、まずはしっかりアンドゥオールをして、美しく見せる意識があれば十分です。

「自分は少しずつ変わっている」と気づけたのなら、それこそが大人バレエの醍醐味とも言えます。

焦らず、無理せず、自分のペースで――それこそがバレエ上達の一番の近道です。